SWITCH

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 ずんずんと知った道だろう日陰を、濡れたアスファルトを踏みしめて進んでいくと、寂れたガレージのしまった空き店舗前で立ち止まった。そっと顔を上げれば、そこは明らかに未成年を拒むような、小さな入り口と、陰鬱とした雑居ビル独特の侘しさが漂っている。俺はごくり、と息を飲み込むと、 「いくぞ」 「え?」  有無を言う間も与えられぬまま、雑居ビルの中へと引き込まれた。築何年かは分からないけれど、清掃だけは行き届いているらしく、表面よりも中は抵抗感が少ない。それでも階段に灯る蛍光灯の明かりは弱弱しく、心許ない。俺は急な階段を急かされながら登り、三階へと連れていかれる。  ラブホテル、とも言い難いその雰囲気に、全くと言って良い程に、この場所がどんな場所なのかと言う判断が付かない。小さな小窓から申し訳ない程度に降り注ぐ光量と、少し降っていた雨せいか、湿っているくすんだ灰色の壁は陰鬱だ。 「ここは共用部分です。ゴミは持ち帰りましょう」 「五階アルファ、バイト募集」  様々な張り紙の中、目が通せた一部からもここはどこなのか、見当もつかない。  いっきに三階まで上がったせいか、俺も志村も少しだけ息が切れていた。脚が痺れたようにじんわりと疲労に怠くなっている。俺たちは一つの分厚そうな扉の前に立っていた。  扉には「DSide」と書かれた白い、プラスチックプレートが、素っ気なく張り付けられていた。 「ここ、どこ」  思わずそう尋ねるけれど、志村は何も答えてくれなかった。ただ繋いでいた手はぱっと離され、俺は今すぐ振り返って逃げ出せばいいのに、志村の行動を待っていた。きっと、逃げたところで志村は追いかけて来ないのは、何となく分かっているのに、脚が動かない。
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