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ネクタイを解いてベッドに置き、ワイシャツのボタンをはずし、ズボンのベルトを外して、前をくつろげる。ベルトの金具の音が、妙に部屋の中に響いていた。ズボンと下着を指に掛け、引き下ろす事に躊躇っていると、
「大丈夫」
と、志村の手が俺の背中に触れた。肩甲骨を確かめるような指先が、無理しないでいいんだよ、と念を押す。
違う、そうじゃない。
胸の中で何かが燻る。
俺は下唇を噛んで、勢いを持ってズボンと下着を脱ぎ捨て、靴下も脱いでベッドの下に放り投げた。
生まれたままの裸体を見せる事には抵抗があるので、膝を抱えてベッドの隅へと避難する。視線を逸らして、なるべく小さくなるようにと、腕に力を込めて、膝を抱えた。
「恥ずかしいから、あんま見るな」
羞恥心と、これから起こるだろうことに心臓がどくんどくんと、別の生き物みたいな音を立てている。今の俺の身体に、俺の物なんていうものは、一つもない気がした。
「伊波、可愛い。ルック」
コマンドが零れると、脳の一番奥から粘つくような液体が出るような感覚がした。どろりと、それは身体中を駆け巡り、視界を霞ませ、背筋をぞわぞわと粟立たせる。
抗いようがなくて、俺は志村へと視線を向けた。せめてもの抵抗として、睨みつけるように視線を投げつければ、志村の大きな手が俺の頬を優しく撫でた。少しだけ驚いて、彼をじっと見つめると、青灰色の薄暗い部屋の中で、彼がひっそりと、静かに笑みを浮かべているのが分かった。その静けさに、心臓がまた別の変わった音を立てる。どくり、とくり、ことり、ころん、うまい擬音が見つからないまま、ただじっと吸い込まれるように彼を見つめた。
温めるような仕草で頬を撫でる志村の掌に、不思議と羞恥心や恐怖などが薄らいでいくのが分かる。
「志村……」
俺は自ら彼の大きな掌に、頬を押し付けていた。もっと。もっと、そうやってして、とねだるみたいに。
――俺、どうしたんだろう。相手は志村だっていうのに。
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