SWITCH

6/46

196人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
 昇降口から聞こえてくる喧騒を聞きながら、俺は彼の隣に立ち、 「なあ、志村って結局あの後どうしたんだ?」  と、彼に小さく耳打ちした。中島は視線だけで俺を見ると、「知らね」と小さく肩を竦めて、その話はしたくない、と拒否するように、俺から視線を逸らした。 「なあ、俺達このままで良いのかな」  俺はそれでもと、仲間内の中でも幾らか良心的で、話も合う中島に思い切って告げてみると、彼は学校指定の鞄を肩に掛けながら「まあ」と苦い薬でも飲んだように、曖昧に頷いた。しかしその表情には、躊躇いと困惑に交じりながら、迷惑そうな苦笑いが滲んでいる。 「俺もそう思うけど……そうは言えないだろ」  言われて俺は反論する言葉を失った。 「俺はノーマルで、ただの傍観者だから、グレイでドムを威嚇したり出来ねえし。礼だってドムだけど、あいつを負かせねえだろ?」  そうだ。  スイッチという特異体質のせいか、ドムとして縄張りや所有物を主張する際、眼光から発するグレイが人よりも酷く薄いと医師から言われている。 「だけどさ」  脳裏に今朝のニュースが蘇る。 「お前が言いたい事分かるぜ? 俺だってだせえって思ってる」  でも現状どう変えるんだよ。  畳みかけるように言われて、俺は「でも」と反論しかけた。しかし、言葉を、「でも」の先を見つけられなくて、喉の奥へと言葉を転がすしかなかった。中島は微かにため息のようなものを吐いてから、 「見ない振りが一番なんだよ」  そう言って俺の肩を叩くと、教室行こうぜと背中を片手で押して促してくれる。諦めろ、最善を取れ。そう励ますような、諦めを促すようなものが胸に響いた。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

196人が本棚に入れています
本棚に追加