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三年に進級してから同じクラスになった彼は、何かと俺に突っ掛かってくる。ああしてじゃれてくる事も、何もしてない俺に対してグレイをちらつかせて威嚇してくる事も、偶にではない。ほぼ毎日だ。頭もよく、国立大学現役確定という噂がある程頭脳明晰で、顔立ちも華やかで目立っている。しかも彼はダイナミクスの性を持つドムだ。それが何故――一般的には珍しいと言われるダイナミクスではあるが――グレイの薄い、ドムのなり損ないみたいな俺に関わってくるのか分からない。
しかし、スイッチと言う体質がバレている可能性は低い。俺が外に出ている間、サブの面を表に出したことは過去に一度だけだ。
そこまで考えて、俺は頭を横に振った。心の奥底に沈めたはずのものが、心の隙をついては、すぐに頭を擡げ始める。俺は制服のポケットに手を突っ込むと、その中で強く拳を握る。
考えるな、考えるな。俺が生きているのは、過去じゃない。
そう言い聞かせながら、深緑色の黒板を強く睨みつける。浮上しかけた記憶は、頑なな俺の拒絶を感じたのか、またゆっくりとずぶずぶ、泥沼の奥へと引きずり込まれていく。
すると、不意にポケットに入れていたスマホが俺の手の甲の上で振動した。そっと取り出して中身を確認すると、東からだった。
『今日の放課後も楽しい事しよーね』
――最悪のお誘いだ。
俺は舌打ちを心の中で押し留めて机の上に突っ伏した。
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