SWITCH

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 彼の言う楽しい事を本当に「楽しい事」だと認識して、心底楽しめる人間がいるとすれば、それを外道と言うのだろうと思う。 「今日もセーフワードなしでいい?」 「いいよね、いいんじゃね? こいつ今まで一度もドロップした事ねえし」  本来プレイ前にドムとサブの間にセーフワードを設けないのはご法度である。サブの限界を超えてまでの強制的な服従を強いるのは、サブの精神を壊しかねない。  もし、この行為が行き過ぎてしまえば……。  俺は今朝見たニュースを脳裏に思い浮かべてぞっとした。最悪な場合は、志村が重傷もしくは死に至る。  俺は手に拳を作って、隣に居る東を睨みつけた。 放課後、隙を見て帰ろうとした俺を、東の強い右手が引き止めた。振り切ろうと振り返った瞬間、「シカトすんなよ」そう言いながら今朝よりもはっきりとした色を宿したグレイを当てられ、俺は腹の奥底をぎゅっと握り込まれるような恐怖に苛まれた。 征服される。その圧倒的な感覚は、不快感すら入る隙の許されない、いわば恐怖のような物と言って良いものだった。  ――なんで俺が。 「……東、長居したくない」  苦し紛れにそう訴えると、東はわざとらしい作り笑顔で「終わったらタピオカ飲みに行こ」なんて言った。誰がお前なんかと。  そう思いながら連れていかれた、数年前に増築され、不要となってしまった旧校舎に、いつもの仲間内がいた。
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