193人が本棚に入れています
本棚に追加
10-1 遥人、燃え尽き症候群かもしれない count-one
「遥人! 飛び散ってるじゃない、もう」
「あっ……?!」
大好物のビーフシチューが目の前にあるのに。
手に持ったスプーンですくって、口元に運んだつもりなのに。
どこか傾いたスプーンからポタポタと汁が垂れていく。最後に大きめのビーフがボトリとお皿に落ちて──遥人が着ているスウェットに汁が飛び散った。
見かねた家族にそれを指摘され、我に返った遥人が慌てて近くにあったタオルを手に取る。
夕飯だからと、真っ赤に泣き腫らした目で自室から階下に降りてきた末っ子に、日曜で在宅していた両親も二番目の兄・悠人も、何も言わなかった。わざわざ好物のメニューを用意してくれた以外、普段と何も変わらぬ様子で夕食のテーブルを囲む。
とはいえ、どこかボーッとしたままの遥人に痺れを切らしたのだろう。きちんと食べなさい、と。母親はそう言うと、少し困ったような顔をした。
最初のコメントを投稿しよう!