Interlude / Now I know -旅の果てに見たもの- Side 遥人

1/1
前へ
/1046ページ
次へ

Interlude / Now I know -旅の果てに見たもの- Side 遥人

 いつだって夜明け前が一番暗い。  ステージのライトが落ちた。 「デビューオーディション、Roc Me Out Winnerは──」  候補生も、観客も。映像の向こう側にいる視聴者や舞台袖のスタッフも──誰もが息を止め、固唾を呑んでその瞬間を待つ。  ほんの数秒がまるで永遠に思えるほど、長い時間。  4人全員で繋いだ手を離したくないと思った。  この4人なら、どこへでも行ける。  楽しいことも、つらいことも。なんだって乗り越えられる。この先も、ずっと。  さぁ、来い!  呼ばれるのはTierraだ。勝つのは僕たちだ。  だから祈るようにギュッと目を瞑った。 「Winnerは──SoL!」  ステージ上も観客席からも。会場中から割れんばかりの拍手と大歓声が湧き起こって──僕は慌てて目を開けた。  その後のことは、よく覚えていないんだ。  さっきまであんなに、力強く手を握り合っていたはずなのに。  隣に立っていた零生が、力なく膝から崩れ落ちていく。  その横のゆづ季は、全てを悟ったかのように首を横に振って。それから身を屈め、泣き崩れる零生に手を差し出した。  反対側にいたはずの京ちゃんの手が、指が離れていくのがわかった。  上を見上げる彼はまるで涙を堪えるみたいに唇を噛み締め、勝者に拍手を送っていた。  それからしばらくして、京ちゃんや他のグループのリーダーが笑顔で凌太さんの元に駆け寄っていく姿を見て、僕はようやく理解した。 「なんで……なんでだよ!」  涙と共に張り上げたはずの声は掠れていて、その声ですら周囲の歓声にかき消されていく。    大歓声と拍手に包まれて、ステージの一番前に歩いていくのはTierraだと思っていた。  きっと余裕の表情のゆづ季が先頭で、その隣には笑顔の京ちゃんがいてさ。  そして、後ろからはダンサーの自分と零生が続く。手を振りながら歩いていくんだって。  歓喜の涙を流すのは、自分たちだと思っていた。  信じて、疑いもしなかった。  でも、今。  飛び込んできた視界の先、ステージの一番前に立っていたのは瀬那くんだった。ライバル(SoL)だった。  王様が負けたとかじゃない。  超えられなかった、彼と彼らを。誰よりも、自分が。  想像もしていなかった結末に、Tierraの負けを悟った。  あぁ、負けたんだ。勝てなかったんだって。  燃やし続けた情熱は灰になって、全て吹き飛んでいく。  僕たちの旅は今、終わったんだ。
/1046ページ

最初のコメントを投稿しよう!

193人が本棚に入れています
本棚に追加