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Interlude / Now I know -旅の果てに見たもの- Side 遥人
いつだって夜明け前が一番暗い。
ステージのライトが落ちた。
「デビューオーディション、Roc Me Out Winnerは──」
候補生も、観客も。映像の向こう側にいる視聴者や舞台袖のスタッフも──誰もが息を止め、固唾を呑んでその瞬間を待つ。
ほんの数秒がまるで永遠に思えるほど、長い時間。
4人全員で繋いだ手を離したくないと思った。
この4人なら、どこへでも行ける。
楽しいことも、つらいことも。なんだって乗り越えられる。この先も、ずっと。
さぁ、来い!
呼ばれるのはTierraだ。勝つのは僕たちだ。
だから祈るようにギュッと目を瞑った。
「Winnerは──SoL!」
ステージ上も観客席からも。会場中から割れんばかりの拍手と大歓声が湧き起こって──僕は慌てて目を開けた。
その後のことは、よく覚えていないんだ。
さっきまであんなに、力強く手を握り合っていたはずなのに。
隣に立っていた零生が、力なく膝から崩れ落ちていく。
その横のゆづ季は、全てを悟ったかのように首を横に振って。それから身を屈め、泣き崩れる零生に手を差し出した。
反対側にいたはずの京ちゃんの手が、指が離れていくのがわかった。
上を見上げる彼はまるで涙を堪えるみたいに唇を噛み締め、勝者に拍手を送っていた。
それからしばらくして、京ちゃんや他のグループのリーダーが笑顔で凌太さんの元に駆け寄っていく姿を見て、僕はようやく理解した。
「なんで……なんでだよ!」
涙と共に張り上げたはずの声は掠れていて、その声ですら周囲の歓声にかき消されていく。
大歓声と拍手に包まれて、ステージの一番前に歩いていくのはTierraだと思っていた。
きっと余裕の表情のゆづ季が先頭で、その隣には笑顔の京ちゃんがいてさ。
そして、後ろからはダンサーの自分と零生が続く。手を振りながら歩いていくんだって。
歓喜の涙を流すのは、自分たちだと思っていた。
信じて、疑いもしなかった。
でも、今。
飛び込んできた視界の先、ステージの一番前に立っていたのは瀬那くんだった。ライバルだった。
王様が負けたとかじゃない。
超えられなかった、彼と彼らを。誰よりも、自分が。
想像もしていなかった結末に、Tierraの負けを悟った。
あぁ、負けたんだ。勝てなかったんだって。
燃やし続けた情熱は灰になって、全て吹き飛んでいく。
僕たちの旅は今、終わったんだ。
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