ほつれかけのボタンにはならない

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ほつれかけのボタンにはならない

約束したんだ。君を諦めないって。 何度も何度も告白して、やっと振り向いてもらえた。 ほつれかけのボタンを直して笑った君。 だから俺は、どんなに突き放されても俺は、絶対あきらめたくない――。 それは突然だった。 バカみたいに天気がいい日だった。吹かれた桃色の木が揺れる、四月のその日。 君は無機質な白いベッドに座って言った。 「私、もう死ぬみたい」 これまた、バカみたいに晴れた笑顔を向ける君に、俺はただ顔をひきつらせた。 「何言って――」 「だから」 俺の言葉を遮って君は言う。 「もう、帰ってくれない?」 君は、ばいばい、と軽く手を振って俺を病室から追い出した。 何も言えないまま、気付けば俺は、病院の外に立っていた。 「なんだよ、それ」 ぐっと噛んだ唇から血がにじむ。夢であればいいと思ったけど、苦くて飲み込みたくないようなその赤い液体に、現実だと叫ばれた。 そこから、どうやって家に帰ったのかはわからない。 だけど家について、ハッと目を見開いた。 玄関に置いた、君が描いた絵。君と一緒に買いに行った靴。 仲に入れば、君が来た時のためにと用意したテーブルセット。お揃いのマグカップ。 君がくれた高いボールペン。 その横に、渡しそびれていた小さな紺色の箱。 「ああ、だめだ」 音もなく床に膝をつく。そこに小さく染みが出来ていく。 「嘘吐きだなあ、ほんと」 震える声でつぶやき、あまりに情けなくて笑い泣いた。 思わず拭った時、ほつれかけていたボタンが目に入る。 このままにしていたら、きっとほつれてどこかに落としてしまうかもしれない。 ――でも、そうはさせない。 翌日。これまた晴れた朝のこと。 今日は午後出勤だから、とほつれかけのボタンを直した。 紺色の箱も、スーツのポケットにしまい込む。 そうして支度をして、家を出る。 ほんの少し強い風が吹く中、俺は灰色の建物を見上げて、ポケットの中のそれをぎゅっと握りしめた。 「諦めないからな」 決意表明のつもりでつぶやき、足を一歩踏み出す。 その頭上から吹かれ、落ち行く桃色の花びらが、ひと際強く吹いた風に吹かれ、空に舞った。
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