第8話 皇帝陛下(漁夫の利)

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第8話 皇帝陛下(漁夫の利)

僕は珂瑠(かる)(軽)。弱々しい父ちゃんは草壁皇子、 賢い母ちゃんは阿陪皇女、 美人の姉ちゃんは氷高皇女、 怖い婆ちゃんは持統天皇だ。 僕は婆ちゃんと父ちゃんを観て、 いつも、僕が天皇にならなきゃいけない そう思ってた。 父ちゃんはいつも我は天皇など出来ぬと 口癖のように言ってるのを聞いてきたから 僕がしっかりしなくちゃいけないそうも思った。 父ちゃんはいつも優しかった。 そして僕にだけ話してくれた事がある。 「我は悪い人間だ。  大事な人を死なせてしまった。  死ぬべき人じゃない人を。  誰よりも平和を愛し誰よりも優しかった人を。  我の母上様が罠を仕組んだのかもしれぬ。」 そうも言っていた事があったんだ。 父ちゃんが死んで婆ちゃんは僕に厳しくなった。 色々な事を鬼の婆ちゃんにスパルタ教育された。 僕は心の中にだけ婆ちゃんに反発していた。 僕は美人の姉ちゃんが好きだ。 僕の大好きな姉ちゃん。 僕が文武天皇として即位した時、 姉ちゃんは18歳になる年頃の娘だった。 姉ちゃんも僕の事が好きだった。 僕と姉ちゃんがあんな事になるなんて 僕は考えた事もなかった。 恐れ多い美人の姉ちゃんは、 普段人に見せる顔は名前の通り氷のように 冷たさも顔に出てる美人な為、 また天皇の僕よりも年上の美人な姉という立場が 余計に誰もが姉を恐れ多いと思って 誰も姉に近づけなかった。 まして姉を誘うなど誰も居なかったのである。 だからなのか、姉はある時、人恋しさから 僕を姉の部屋に誘われ、 姉が僕に接吻をしてきた。 僕は姉が密かに好きだったから 余計にドキドキして興奮してしまい、 姉上、僕も姉上をずっとお慕いしていました。 と姉の口の中へ舌を入れ舌と舌で絡ませた。 それから僕は無我夢中で姉を押し倒し、 熱い一夜を共にしたことがある。 たった一度きりでしたけれど。 それをあろうことか、母ちゃんに見られて しまった。 母ちゃんはもうこんな事をしてはならぬと 厳しく言っていた事もあり、僕も もう姉とは二度とこんな事をしちゃいけない そう思って、誰か他を探さなくてはと焦り 父ちゃんの頃から仕えていた藤原不比等に 娘の宮子を気に入ってるから私の所へ 連れて参れとつい言ってしまって、 藤原不比等から娘を紹介して貰い 成り行きに任せて僕が16歳の時、 宮子を妃にしてしまったのだ。 僕は姉ちゃんとの一夜の過ちを 胸に思い出しながら、宮子を幾日も抱いた。 ある時婆ちゃんからは、 「皇族の血族を皇后としてつけなさい、  例えばそうねえ、紀皇女はどうでしょう?」 と言われ、婆ちゃんは父ちゃんと異母兄弟の 紀皇女に命令し僕の元へと皇后として嫁ぐ 事が決まった。 僕は18歳の時に婚姻の約束をし、 皇后への正式な儀式の前日、 事もあろうに、紀皇女は異母兄弟の弓削皇子と 密通して愛し合っていたのだ。 翌日の皇后の儀式で、紀皇女と弓削皇子の逢引が 発覚した。前日の二人の行為を目撃した者が 何人かいたのだ。その密告により、 婆ちゃんが二人の処刑を命じさせた。 婆ちゃんはその後一切の書にての記載一式にて、 紀皇女が僕との皇后になる、なったとの 事柄を全て抹消した。 僕が21歳の時に婆ちゃんが亡くなり、 その3年後24歳の時に僕はこの世を去り、 死ぬ間際、悲し目で見られた、 母ちゃんと姉ちゃんが抱きしめてくれた。
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