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「え、えええ……じゃあ……」
彼女はどこからともなくシュシュとお揃いのパステルグリーンのナイロールフレームをかけた。レンズはオーバル寄りで思ったよりシャープな感じだ。悪くないな。
「もっとハート形のサングラスとか奇抜なヤツで来るのかと思った」
「それ瞳とつり合いとれなくない?」
そう言って自分の髑髏の瞳を指差す彼女は少女特有のあざとい可愛らしさを醸している。
「なるほど一理ある」
「え、えへへ、そうでしょー!」
「そうだとも! それでメルちゃん様はいったいなんの御用で。君は俺の夢の産物と違うよね多分」
これはカンだけれども、彼女は俺の意識の外からきた存在のような気がしていた。その言葉に彼女はドヤ顔で慎ましめの胸を張る。
「ふふー、さすがあたしちゃんの存在感はニンゲンくんの自意識では生み出せないってわかっちゃうかー! 仕方ないなー!」
「いやこんな目の痛い配色ちょっと俺には無理かなって。それに出てきたとき眼鏡かけてなかったし」
「あ、はい……聞かなきゃよかったかも。まいっか。じゃあ本題に入るね!」
彼女は一瞬スンッとなったが気を取り直して笑顔を作る。
「魂くれってか? 死神だけに」
「まあそんな感じ、かな?」
「なんだよその曖昧な言い方」
「実は、あたしちゃんちょっと前に彼ピ魂くんを落っことしちゃって!」
「彼ピが魂なのはともかく落っことすのかよ。それほんとに彼ピなの? ペットじゃなくて?」
「彼ピなんですう!」
「あ、はい」
「それでずっと探してたんだけど、その間に君のママちゃんのお腹に入っちゃったのね。それでニンゲンくんが産まれちゃったの!」
「ちなみにちょっと前ってどんくらいよ」
「十六年くらい?」
「メルちゃん今なんちゃい?」
「それはねえ、ひ、み、つ♪」
「あ、うん。はい」
死神だしな。人間如きには計り知れない時間感覚のようだ。
「それでつまり、それってもしかして俺が彼ピ魂氏の生まれ変わりってこと?」
「うーん、そうでもあるしそうでもないかなー?」
「なるほどよくわかったけどもう少しだけ詳しく」
全然わかんねえ。
「ニンゲンくんは彼ピ魂についた脂身みたいなもんなんだよねえ」
「脂身」
「贅肉っていうの? 魂って地上に降りると肉とか人格とか余分なとこがついちゃうんだよね」
「なるほど」
生まれてこのかた数多の罵詈雑言を浴びてきた俺だけど【お前の肉体も人格も贅肉】って言われたのはさすがに初めてだな。興奮してきた。
「というわけでニンゲンくぅん」
「はぁい」
「死んで欲しいなーって!」
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