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「ないかな」
「なんでえ!?」
メルちゃんが不満と驚きの交じり合った声を上げる。むしろなんでイケると思ったんだよ。死神の感性独特過ぎんだろ。
「魂になればシュッとスマート、重力からも苦悩からも解放されて超ハッピーだよ!? しかも!」
両手の人差し指を自分の頬に当てて明るい笑みを浮かべる。
「こんなプリティ彼女が今すぐできちゃうんだから!」
「でもなあ……」
まあ正直言ってメルトミルテは可愛い。アイドル並みの美少女だ。
ノリはあんまり理解できないが彼女の明るさは見ているだけで楽しい気持ちになってくる。そして眼鏡のセンスも嫌いじゃない。
おっぱいだけは残念だが、有りか無しかで言えば有り寄りの有り、ありありだ。
しかし彼女が欲しいのは俺の魂であって肉体はおろか人格すら贅肉と言い切られている。いやあこれやっぱハイとは言えんでしょ。
なんか妥協点はないもんか。
例えばそう、まずは俺を彼氏にするとかどうかな。死後は彼ピ魂くんも回収できて一粒で二度美味しい作戦だ。
「むしろ俺からも聞きたいんだけどさ」
「お、なにかな? なにかな?」
「メルちゃん俺のことはどう思ってるわけ?」
「脂身」
「それはさっきも聞いた」
「あ、うん」
「そうじゃなくて、今喋ってる俺は今すぐ消えろってくらいウザいのかとか、そういう話よ」
「ほ、ほええ?」
彼女はちょっと悩むように首を傾げた。明らかに戸惑っている。
そりゃそうだ。俺だってトンカツの脂身が語りかけてきたらかなり面食らう。「あたしのことそんなにきらい?」とか言いだしたらもうトンカツそのものを食わずに川に捨てる可能性だってある。
「メルちゃん、肉体も人格も脂身って言ったけど、脂身を捨てて魂だけ持ち帰るより一度その脂身と付き合ってみてもいいと思わない?」
「ええ、いや……えええ……」
彼女は目に見えて混乱している。
「メルちゃんなら俺の魂なんていつでも持ち帰れるだろ? ぶっちゃけほっといたって俺なんか何十年かしたら死ぬわけだしさ」
「うーんまあそれはそうだけどぉ」
歯切れが悪い。やはり数十年程度は彼女にとってはさほど大した時間でもないんだな。普通の人間相手にこんなこと言ったらキレられるもんな。
「それに彼ピ魂は手に入れればずっと手元に置いておけるけど、肉体や人格のある彼ピ魂を楽しめるのは今しかないんだぜ?」
「お、おお……なるほど……?」
本当に人間に興味がないんなら彼女自身が可愛さを気にするはずがない。そして話を聞く限り彼ピ魂に人格はない、ならたぶん知能もない。せいぜい犬や猫くらいリアクションをするかもって程度だろう。つまり彼ピ魂は彼女の可愛さを褒めない。でも俺なら褒められるし実際彼女はそれで機嫌を良くしている。
それに無理に俺を殺さなくても“俺が天寿を全うするまでの少しばかりの時間(死神基準)”を待てば待望の彼ピ魂は手に入るんだ。
「それになメルちゃん……」
俺はぐっとタメを作ってずっと考えていた決め台詞を言い放った。
「肉月に旨いと書いて脂と読む! そう、贅肉は美味しいのだ! 捨てるなんてとんでもない!」
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