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それを脂身から主張されてるって考えると非常にシュールだが、とにかく彼女のハートには無事ぶっ刺さったらしい。
「うーん……そう言われてみると、ニンゲンくんもそんなに悪くない、かな」
やや頬を赤らめてちらちらと様子を伺ってくる。押してくれってことですねわかります。
「じゃあちょっとお試しで付き合ってみないか? どうせ主導権はそっちにあるんだしさ、軽い気持ちで始めてみてもいいじゃん?」
こんな台詞リアルじゃ一回も言ったことねーけどな! 大丈夫、これは夢だから! あとたぶんガチで命かかってるからなんでもできる。
さりげなく距離を詰めた俺は敢えて触れることなく覆いかぶさるように片腕を彼女の顔の横に差し出す。壁ドンってやつだ。
壁ないだろって? 甘いな、俺があると信じれば奇跡も魔法もドンする壁もあるんだよ!
案の定彼女の背後の空間に壁のような手答えを感じた。ほらな!
調子に乗った俺はそのまま顔を近付ける。が、接触までしてしまうとやり過ぎかもしれないので触れるか触れないかギリギリの距離を保つ。俺の夢の中じゃこの距離がソーシャルディスタンスだぜ!
まあ彼女に触れた場合わりとなにが起きるかわからないってビビリ心もあるけど。悲しいけどパワーバランスは圧倒的にあっちが上だ。
「じゃ、じゃあ……あたしちゃん、お試ししてみちゃおっかなー……」
彼女が恥ずかし気にごにょごにょと答える。おっしゃ! 俺は生き延びたよ母さん!!
心の中でガッツポーズした瞬間、ふたりだけの空間に第三の声がこだました。
「ちょおっとお待ちくださいまっせえっ!」
高圧的な力ある声だ。でもやっと話が纏まろうとしているところで水を差すのはやめて欲しいな。今めっちゃ取り込んでるんで一回帰って明日くらいに出直してくれないだろうか。
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