23人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
目が覚めるとそこにはなにもなかった。
いやこれ目覚めてないな。視界は見渡す限り白い空間に、お星さまのようなキラキラを帯びたパステルカラーのピンクとかグリーンとかのオーロラだか油膜だか判然としないものが辛うじて彩りを提供している。
立っているはずだけれど重力や踏みしめ感があるわけではなく、なにもない空間になんとなく直立していて頭の向いている方向が上っぽい感覚。
これが夢でなくてなんなのさ。よし夢だ。
こういうのなんて言うんだっけ? 明晰夢? ロクな風景も無く誰もいない、空間だけで明晰夢と言われても虚無感半端ないな。
なんて途方に暮れる俺の目の前にふわりと影が現れ、ひとのような姿に変わった。
灰色とも黒とも言えぬ暗い色の外套に身を包み大きな鎌を持ったそれはまさに死神。いやあこれは死神ですわ。疑いの余地が無い。
「ちぃーっす! こんちわニンゲンくん!」
甲高い声でめっちゃカジュアルに話しかけてきたぞ。女の子っぽい声だ。期待していいのか?
「チィスチィスこんちわ初めまして! えっと、死神さん?」
挨拶は大事って色んな古典的書物に書いてあるらしいしまずは先方のテンションに合わせた挨拶を返してみる。どうせ夢だ、怖いものなどあんまりないぜ。
「いぇーっす! 死神のメルトミルテだよ!」
「なるほどメルちゃんよろしく! ところで初対面の相手に外套被りっぱなしなのはどうかな!」
名前もそれっぽいしこれは女の子だろーというわけでさっそく適当ぶっ込んでみると、存外あっさり外套を脱ぎ捨てた。中身はご期待通り女の子だ!
オレンジ髪のツインテにちょい吊り気味の大きな目。髪の結び目はパステルグリーンのシュシュが被せられている。服はレースの付いた白いブラウスと赤と黒のチェック柄ショートブリーツ。そこにピンクと白のオーバーニーが目に眩しい。というか全体的に派手めだな。目が痛い。
「んもー! これでいいかな!?」
そしてその瞳は髑髏模様だった。
そう、目がハートとかシイタケとかあるじゃん? あれが髑髏なんですよ。赤い髑髏。すげえよ死神。
だがしかしそれだけではちょっと足りないな。
「あとは眼鏡かな」
ほげ? って顔で首を傾げる彼女にビシッと指を突き付ける。
「眼鏡だよ。なんで眼鏡かけてないの?」
「え、だってメルちゃん視力10.0だし」
「そういう埒外な視力を聞きたいわけじゃない」
「え、あ、はい?」
「これ夢だよね」
「えーっと、まあ、夢、かな?」
「俺の夢だよね」
「んーっと、まあ、そう、かな?」
「じゃあ眼鏡かけて。役目でしょ」
俺の夢なんだから当然この程度の要求には従って貰う。慈悲はない。
最初のコメントを投稿しよう!