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「お疲れ様でした。おやすみなさい、明石華ちゃん」
「おやすみ、おじさん」
華は最後の最後まで無邪気に笑うと、その名前にピッタリな華やかな笑顔が辺りを明るくする。それは遺影に使われている写真のように、純粋で真っすぐな笑み。
雅史は瞬きをすると、目を開いた瞬間、華は忽然と姿を消していた。それから天井を見上げると、ふーっと息を吐く。両手を合わせ、黙祷した。
「おやすみなさい」
そう呟くと、後ろから足音が聞こえてくる。振り返ると、作業を終えた勝次が「お疲れ様です」と言って立っていた。
「お疲れ様です、勝次君」
勝次は華が座っていた場所とはまた別の場所に座ると、華の遺影を見た。
「行ったんですね」
「ええ、今おやすみになられました」
「そうですか、お疲れ様です」
「勝次君も」
雅史は立ち上がると、勝次も同時に立ち上がって二人で会場を後にする。
「まさに、あの詩通りですね」
「止めてください。私はあの詩が嫌いなんです」
雅史はそう言うと、事務所のドアを開いた。中では先に午前の職務を終えている葬儀屋たちがパソコンを睨んでデスクワークをしている。雅史は白い手袋を取るとポケットにしまった。目の前に勝次が座り、パソコンの電源を入れる。
「誰が書いたんですかね、あんな詩」
「さぁ、どこかの暇人が書いたのでしょう。それか私と同じ境遇の人物が書いたか」
雅史はパソコンにデータを打ち込んでいくと、勝次が短く息を吐いてカタカタとキーボードを叩き始めた。
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