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喪主はお坊さんの存在に気が付くと、立ち上がり会釈をした。お坊さんも会釈をし返し、お悔やみの言葉を言う。両者紹介し終わった後、お坊さんは他の葬儀屋に任せ、雅史は会場の外に出た。廊下で参列者たちを待っている。
最終調節が終わった葬儀屋たちは会場から出ると、雅史を見るなり会釈をした。
「鎌江さん、おはようございます。朝から相変わらず大変そうで」
「それは貴方もですよ、勝次君」
「ですね」
勝次、と呼ばれた男は雅史よりも少し年下だが、祭壇づくりには長けている人物だった。雅史とも気が合い、暇な時は良く酒を飲みに行ったりする。
「それにしても本当に可哀想ですよね」
勝次はそう言うと、椅子に座り呆然と遺影を見つめる喪主を見た。雅史は「そうですね」と言うと、同じく喪主を見る。喪主の後ろ姿は悲しく、悲哀の色が滲み出ていた。それもそのはずだ。まだ幼い我が子が亡くなったのからだ。聞いた話だと、どうやら信号無視したトラックに跳ねられ、死亡したそうだ。
トラックによって、幸せはあっさり踏みつぶされてしまった。
少し騒がしくなるのが分かり、雅史と勝次は玄関の方を見ると、別の葬儀屋が参列者たちを案内していた。それを見て、それぞれの参列者に会釈をする。会場に入ると、神聖な空気のせいか、参列者たちは静まり返り、空いている席に腰を掛けた。聞いている参列の人数とやって来た人数を照らし合わせ、始まりの時刻まで待つ。時間が近づいてくると、挨拶を任されている雅史は勝次と別れ、会場入りした。
置いてあるマイクの前に立つと、時計を見る。時計の時刻が丁度変わった瞬間、口を開いた。葬式の始まりである。
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