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喪主に挨拶をし、請求書を渡すとその場で料金を払ってくれる。葬式後すぐの請求はいかがなものかと思うが、トラブル回避の為に雅史の会社では当日清算を推奨していた。雅史はお金を受け取ると、大事に仕舞い二人を玄関まで見送る。だが会場を出る前に、誰かがいる気配がしてピタリと足を止めた。
振り向くと一人の少女がじっと遺影を見つめながら、寂しそうにしている。雅史は喪主と別れた後、すぐに少女に駆け寄ると、顔を見てハッとした。
「何を見ているんですか?」
雅史は少女の隣に屈み話しかけると、少女は遺影を指差した。それを見て「そうですか」と言う。
「華ね、ここが好きだよ」
華、と名乗った少女はそう言うと、雅史はまた「そうですか」と言って頷く。華は何度も「好き」という言葉を連呼して、色々な言葉を挙げていった。
「お母さんも好き。お父さんも好き。おじいちゃんも好き。おばあちゃんも好き。マロちゃんも好き」
「マロちゃん?」
「ワンちゃん。白くて、ふわふわしてるんだ。お家で飼ってるの」
華は無邪気な笑顔でマロちゃんの魅力を語ると、雅史は「可愛いでしょうねぇ」と言った。それに「可愛いよ」と華がすぐに返す。雅史は何度も頷くと、華はまた話し始めた。
雅史の近くでは祭壇づくり担当の葬儀屋たちがてきぱきと働いている。雅史のことは気にかけず、皆自分のことで手いっぱいだった。勝次も黙々と作業を進めている。
「リカちゃんも、コウジ君も、真田先生も皆大好き。お空も、太陽も、雲も、雨だって好き。雷は怖いけど、でも好き。犬も猫もうさぎもライオンも好き。ぜーんぶ好き。大好き」
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