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「さあ、飯を食え」
少年は数週間イデアの世話になり、傷の傷みも落ち着いた。
少年が命令口調で言うと言う事を聞くのが分かったのか。最近ではほぼ全て命令口調だ。
そして、黒という意味の名前ももらった。
「スヴァルト、飯が終わったら、魔術の訓練だよ」
イデアはスヴァルトに訓練に付き合ってくれる。
少し目の痛みはあるが、何かしていないとふとした時に絶望感が戻ってくる。だから、この訓練はありがたい。
「あんたやっぱり宮廷魔術師にでもなりなよ」
小首を傾げる。城には今更戻れない。恐らく死んだことになっているはずだ。
イデアにも端的に説明していた筈だが、分かってもらえていなかったようだ。
「馬鹿だね。顔さえ隠せば問題ないだろ? ほら、この面をやるよ。これで顔が半分隠れるだろう?」
鼻から上を隠す面だった。色は青く、少し装飾が掘り込まれている。
「一種の意趣返しさ。捨てたはずの少年が実は優秀な魔術師だったってね。あの女の驚く顔が見たいよ」
イデアは王妃様と何か因縁があるのだろうか。そう思いつつも、もらった面を被る。
左目の視界が少し狭まる気がするが、問題なさそうだ。
「おお、なかなかにいいじゃないかい。じゃあ続きを行くよ」
スヴァルトはイデアの雷魔術を自分の魔力を受け皿にして吸収していくと、その属性を生かしつつ、体から魔力を放出させる。
するとスヴァルトの手からは黒い雷が放たれた。
黒い属性の者はカウンター攻撃に強いのだ。だが、防戦一方というわけでもないらしい。今は攻めの転じ方について学んでいるところだ。
イデアの手に触れ、魔力を吸収し、それを放出させる。
黒い魔力の塊が飛び出し、近くの木の幹を傷つけ倒した。
「うまいじゃないか、使えそうだね」
笑顔を向けてくれるイデアにスヴァルトの心は開いていった。
まずは会話ができるようになり、笑うことができるようになった。
失われていた感情が少しずつ戻っていく感覚をスヴァルトは感じていた。
いつの間にかにイデアを見下ろすくらいに身長が伸びた。三年という月日を毎日一緒に過ごし、魔術を研究したり、ご飯を作ったり、町まで変装して買い物をしに行ったり、日常というものを経験した。
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