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道中襲ってくる魔物達は電光が走り、次々と倒れて行く。
雷の魔術が使えるんだと少年は理解した。
女が歩みを止めれば、目の前には小さな木造の小屋が立っていた。不思議とその周囲にだけは雪が積もっていない。
結界魔術も使えるのかと少年は理解する。
女が右腕をあげ、左から右に手を動かせば、結界が解かれたのか、雪が小屋の屋根に降り始めた。
女は天に腕をあげ人差し指をはねるように動かせば、再び結界が張られる。
「あんた私が型破りな魔法使っても、何も感じないんだね」
少年は無表情のまま、女に手を引っ張られ、小屋の中へと入った。
小屋の暖炉はパチパチと音を立て、部屋を温めて行く。だが、少年の胸は締め付けられる。
ベッドで横たわるエミリアンの姿を彷彿とさせるからだ。
女は胸を抑える少年の手を強引に引き、暖炉のそばから離し、体の向きを自分に向けさせ椅子に座らせた。
「私の名前はイデアだ。それで何があった?」
「…………」
目を瞑る少年の肩をポンポンと叩く。
「話せ」
少年は命ぜられた。あった事を淡々と話していく。まずは第一王子の影をしていた事、その王子が死んだ事、王妃に目を傷つけられた事、騎士達に救われここまで連れてこられた事を話す。
表情こそは無であったが、体の中を蠢く熱をどう扱っていいか分からない。
怒りなのか悲しみなのか、魔力が定まらない。
「全く、これだから子供は……」
そうすると、イデアはゴソゴソと棚の中を漁り始め一つの大きな透明な丸い水晶を取り出す。
「これに手をかざしな。本来大魔術を形成する時のために自分の魔力を溜め込むものだがな」
少年はイデアに言われた通り、手をかざす。すると水晶の中に黒い渦ができ始め、みるみるうちに水晶は黒く染まりきった。
「これほどまでにため込んで……あんた魔力が元から多いようだね。そして、闇の属性が強いのか。真っ黒だね」
少年はコクリと頷いた。魔術を扱い始めるときに同じように水晶に手をかざした時がある。その時は自分の中の蠢く感覚に驚いてすぐに手を離してしまったが、確か少し黒く渦巻いていた。
「他の属性の魔術は使えるか?」
首を横に振る。何の魔術の特訓をしてもダメだった。自分は魔術に適性がないと、断念して体術に時間をさいた。
「まあ、だろうね」
イデアは原因を知っているのだろうか。他の魔術師達は一通り使い方を教えると、詳しくは教えてくれなかった。出来損ないの影に教えることなんてなかったのだと思う。
イデアはベッドを指差す。
「今日はいいから寝な! 明日これからどうするか決めよう」
だが、ベッドはひとつしかない。少年は壁側に移動すると、毛布にくるまりそこで座る
そして、そのまま目を閉じた。
「あんた馬鹿かい! けが人が気を遣ってどうする。ベッドで寝なさい!」
少年は目を開けると言われるがままに、ベッドに移動して眠りについた。
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