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1.
「今年度1回目の有給を申請します」
私が水色の厚紙を差し出すと、パソコンに向かっていたそよちゃんは画面から目を離さずに「ちょっと待て」と言った。
タバコの匂いが染みついた、仕事場の6畳間。ドアが開いてるときはいつでも話しかけていいルールになっている。
たぶん保存とかの必要な操作をしてから、そよちゃんは回転イスでくるりと私の方を向いた。
「ん、見せて。あぁ、来週か。もちっと早めに出してくれると助かるんだが」
「来週の火曜、2時間続けて図工なの。たぶん父の日イベント的なやつ作ることになるだろうから、私いない方が、お互い楽だと思うし」
「あー……な、」
そよちゃんは片側だけ唇を歪ませて、吸っていないタバコの煙を逃すみたいにため息を吐いた。
図工の先生は優しくて好きだから、余計な気を使わせたくない。先月の母の日直前の図工はゴールデンウィークでつぶれたけど、両親を亡くしてる私にとって、毎年5月と6月の図工はちょっと憂鬱だ。
「で? その日のプランはなんかあんのか?」
「水族館に行きたいと思ったんだけど」
「それは土日でも行けるんじゃねぇ?」
「私は魚が見たいのであってリア充のデートが見たいわけじゃないから」
「ぶはっ、なんだそりゃ。つーか今どき小4でもリア充とか言うんだな」
「幼稚園児でも言うんじゃない?」
今年32歳になったそよちゃんは、本人曰く希少種の昭和64年生まれ。そのせいか、すぐに「最近のガキは」とか「この平成ベビーめ」とか言ってくる。
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