薄明の月

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自嘲するようなため息と共に、ようやく答えが返って来た。 ほっとした男の肩の力が少しだけ弛む。 「自分の命が狙われているというのに、私の身の上の方が気になるのか?」 ーーそう。 そうなのだ。 ひとつ屋根の下、こんな気まずい思いをしながらも、暗闇の中に二人きり息を潜めている、その訳は……。 「……すず、が、襲って来た時は、信じられません、でした」 「そうだろうな」 「あの……本当に、すずが鬼に? でも、なんで? すずは、あんちゃんの嫁さん、だった、のに……」 そう。 今でも信じられない。 兄が死んだ後、ずっとふさぎ込んでいたすずが、急に家から居なくなった。 狭い村だし、すぐに戻って来るだろうと思っていた。 でも、その晩遅くになっても、すずは家に戻らなかった。 .
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