薄明の月

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さすがに慌てて、家族総出で村中を探した。 だが人手を頼んで探しまわっても、村の中にすずの姿は見つからず、翌日、隣の村にも行って聞いてみたが、誰も何の手掛かりも見つからなかった。 もしや、と誰もが最悪の事態を考えた、その時。 「すずは、戻って来ました」 まるでずっとそこにいたかのように、いつの間にか家の中に座っていた。 兄が、祝言のために買って来た赤い打ち掛けを着て。 『何処に行っていたのか』 『何をしていたのか』 みんな心配して口々に尋ねた。 だが……。 「でも、すずは、ただ、笑うだけで……」 何を聞いてもにこにこと笑顔を返すだけで、一言も口を利かなかった。 焦点の合わない瞳はどこか遠くを見ていて、居なくなる前とは明らかに様子が違っていた。 それでも生きて帰って来ただけで良いと、みんな喜んだのに……。 「なんていうか、それから、すず、あんまり飯食わなくなって、でも不思議なくらいキレイになってって……」 .
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