薄明の月

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そこで言葉を切り、男は一度、姿勢を正した。 「オレ、すずを見習えって、よく母ちゃんに怒られてたんです」 朝日が昇るよりも早く起き出して、すぐに畑に出て働いていた、すず。 陽に焼けた肌は血色が良く、健康的だった。 それが、神隠しから戻ってからは、一日のほとんどを家の中で寝て過ごすようになり、どんどん痩せて肌の色も白くなった。 実際、触れたらひやりとするくらい冷たく、青白い肌だった。 ただ唇の色だけがやけに赤く、乱れた黒髪と、空を見つめる大きな瞳と相まって、凄味のある美しさになっていった。 『あの家の娘は気味が悪い』 という噂が流れて村中に広がったのは、あっという間だった。 村の人達の態度が変わり、家族全員がなんとなく避けられるようになった。 狭い村の中、聞きたくもない噂話が耳に入って来る。 「でも、だからって、誰も、すずの事、家から出そうとか、そんな気、無くって、でも……」 でも、以前とはあまりにも変わってしまった、すずの姿に、家族でも戸惑いを隠せなかった。 .
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