薄明の月

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「すずが、おかしい、って、いうのは、分かって、いました。ただ……」 ただ、どうすればいいのか分からなかった。 『狐にでも憑かれているんじゃないか』 『いや、河童に魂を抜かれたのかも知れん』 無責任な噂話に、何をばかな事を言っているのかと、家の者は全く取り合わなかったけれど。 だけど、あれは二日前……。 「その娘が、本性を現したわけだな?」 女の言葉に、男は唇を噛みしめて膝に置いた手を固く握りしめる。 あの日の事を思い出したのだろう。 ーーあの日。 暑い、日だった。 あまりの暑さに畑仕事を早めに切り上げて家に戻ると、戸口に水溜まりが出来ていた。 こんな暑い日に何で、と思って水溜まりに触ってみると、ぬるりとした感触があり指先が赤く染まった。 血の嫌な匂いがした。 慌てて家の中に入ると、何ともいえない生臭い匂いが立ち込めていた。 土間を濡らして血の跡らしいものが、線を引いて家の奥まで続いており、その先の暗がりに、少女がうずくまっていた。 .
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