最果ての地

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(冬の風の最果ての、烈風のごときたたずまいは、超古代の、怒りに燃える海の神の激しさの如し、、、、、、か、、、、、、)さまよいサビーが風に枯れ葉がカサカサ転がるアスファルトを歩いて、たどり着いた場所は、橙色にひろがる海であった。海へ降りる階段を歩き続け、さまよサビーは砂浜に立ち、海を眺めた。橙色の海は、うねるような波をたてていた。耳を澄ますト、ゴ.ゴ.ゴ.ゴ、とくぐもるような音色が、さまよいサビーの鼓膜に干渉した。すると、橙色の海は西陽を含みながら、渦巻き、海中より、まず、長剣が西陽を浴びてキラキラと現れ、次に不動明王の顔がしぶきをあげ、矍鑠と現れた。その黄色い双眼は激しい怒りに燃えていた。やがて怒りの表情は、沈潜した悲しみを宿し、青年阿修羅の表情へと変化した。その変化をさまよいサビーは、感動と共に、逐一見届けた。しかし、その奇蹟はものの数分で、終わりを告げた。神は海に帰り、海も沈静化した。さまよいサビーは、砂浜に坐り、夕暮れの静かな海を眺めた。さまよいサビーは、神を求め続け、探し続けてきたのだ、心の奥底より。その熱い想いが神の幻を見させたのかもしれない、現実に、海から神が現れる、というようなことが起こるわけがない以上は。もし、本当に、そんなことが起こったら、人は其れを、奇蹟、と呼ぶのだろう。凡人は幻というのだろう。さまよいサビーは、その幻を見たのだ。しかし、其れさえも、神の恩寵だと、人のいい、さまよいサビーは、神に感謝した。すると空は俄にかき曇り、不吉な、黒い雲が現れ、、ぽつぽつと雨が降りだした。さまよいサビーは坐ったまま空を仰いだ。雨は激しくなり、雷鳴が遠くより聞こえてくるのだった。さまよいサビーは、立ち上がると、海に背を向け、その場からゆっくりと歩いて、海を残し、海にさよならを提供した。雨があがった。星空がそちこちに拡がり、爽眛な風が渡る。すると、海面が盛り上がり、海から神が現れ、海からあがり、砂浜へと上陸した。神は先刻、さまよいサビーが坐って居た場所に腰を降ろし、星の光にまみれ、月の光にまみれながら、背に赤い炎をめらめらと抱き、じっと海を見詰めていた。その双眸からは、透き通った涙が溢れてゆき、やがてそれは、神の頬を伝って地上に滴った。いや、それは神の顔ではない、神が泣くわけはない。その顔は、さまよいサビーのものであった。神は何らかの理由で、さまよいサビーに心を寄せたのであろう、、、、、、、、、、、、薄荷煙草をいっぽん、神は、懐から取り出すと、ベネトンのライターで火を点け、目を細め、空を仰いだ。暫くして、懐から、不思議なグッチの懐中時計を出し、煙草を海へ投げ、ひとつ頷くと、神は立ち上がり、海中へとゆっくりと、帰っていった。神の足跡を、寄せては返す、穏やかな波が搔き消し、神がかつて、そこに居たことを、いつの間にか忘れさせてしまう。空には星と月が沈黙と共に、囁くような輝きを放っている。小さな人影が浜辺に佇んでいるのが、遠く見える。小さなその影は、暗い海へと向かってゆく。月の光ガ、その顔を、一瞬、鮮やかに照らし出したが、まだ、ほんの少女の面差しなのであった。神がいるならば、すべての孤独の中でいきる人々は、何故、苦い涙を噛み締めて生きていかなければならないのか?、、、、、、、、、、、、その少女は絶叫して、両手で掻き分け掻き分け、海面にしぶきをあげながら、暗い海を進んでゆき、しばらくして立ち止まり、ジョディフォスターのように、夜空を見上げて、両手で顔を覆い、不思議な、狂い出すような、絞り出すような叫び声をあげた。
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