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DAY 1〜
その昔、この世界の在り方を変える程の大きな戦いがありました。
それは、勇者達による各国を挙げての魔王城への進軍。多種族が一同に会し、世界を脅かす魔王を討ち滅ぼす事を誓いました。多くの者達がこの戦いで命を落としましたが、最後には魔王は退治され、世界には平和が訪れたのです。
勇者達は世界中で崇められました。
世界中の民は中央大陸に勇者の国を造り上げ、銅像を作り、信仰をする様になったのです。
そして数百年もの月日は流れ、勇者達が居なくなった今でも、世界中の民は勇者の国を訪れ、勇者の像を神のように崇め続けています。
しかしそんな平和が訪れた時代の中で、一人目覚めた者がいました。
半壊し、義賊達が住み着くようになった魔王城跡の更に地下で、身を起こす者がいたのです。
深い闇の中、隠された小さな部屋にポツンと一人。彼女はゆっくりと瞼を開けて、身体を起こしました。
大きく背伸びをした反動で床に崩れ落ちた彼女は、魔王の娘。
名を、ハニバル・クレアーレ・ベレス。
眠りにつき、今まで封印されていたベレスは当時と変わらぬ幼い容姿でした。
青白い肌に白い瞳、赤い髪と、頭の横に生えている小さな角。どれを取っても他の種族の容姿とはまるで違うベレスは、周りを静かに眺めた後、眠気を我慢しながら部屋の中を歩き出しました。
言葉を覚え始めて間もない頃に封印されていた影響か自由に身体を動かせず、記憶も朧気。分かる事といえば、自分が魔王の娘だという事のみ。
ぺたぺたぺた、ぺたぺたぺた──
歩いても歩いても真っ暗な部屋にベレスは少し不機嫌になって、ほっぺを丸くさせながらも手探りで見つけた扉の取手を、両手一杯に力を込めて部屋の外へ出ます。
松明の続く空間に出たベレスは懸命に走って外へ出てみようとしましたが、その途中で義賊の男と鉢合わせてしまいました。
幼いベレスの何倍も大きい義賊にとって、ベレスは人間の子供と同等の存在でした。
義賊は仲間を呼び、ベレスを一斉に取り囲みます。ベレスは初めて見る父親以外の者に怖くなり、思わず尻餅をついてガタガタと震えて動けなくなってしまいました。
そしてそんなベレスを見て「おい、もしかしてこいつ生き残りの魔族か」と一人の義賊が口を出します。
周りの義賊達は「売れば相当な稼ぎになるのではないか」と騒ぎ始め、更に後ろから義賊の長が割って入り「コイツを味わい尽くしてからでも遅くないだろう」と提案を出しました。
長の出した提案にすこぶる興奮した義賊達は、怯えるベレスの角を強引に掴み、酒呑みに使っている部屋までベレスを引き摺っていきました。
抵抗虚しく、足の指が削られて赤くなるまで引き摺られたベレスは、義賊達にたらい回しに使われ続けました。何度もえずいて、何度も気絶してを繰り返しましたが、他と作りの違う魔王の娘のベレスが壊れる事はありませんでした。
絶望の中、角を折られ──
魔族の象徴を失っても──
ベレスが壊れる事は ありませんでした。
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