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思い出はどこに行く?
「成人の皆様おめでとうございます」
市長の挨拶、スーツや振り袖を身に纏う私たちに少し高めのステージらしきものに乗りマイクで次々と言葉を続ける市長の話を右から左に聞き流しながらこれからの予定を思う。
『ねぇ、成人した時に2人でおめでとうってお互いに祝う為にタイムカプセルを埋めない?』
『タイムカプセル!いいね、成人してからも私たちはずっと親友だもんね!』
『そう、親友だからこそ2人だけでタイムカプセルを埋めよう、それで成人式の日にタイムカプセルを掘り出すんだ』
あれは小学校の卒業式の日、唯一の親友との約束。
小学校のウサギ小屋の前の砂ではないしっかりとした土の所に百均で売っているような手のひらサイズのガラスの瓶にメモ1枚分を入れて『2人だけの約束』としてこっそりとその2つの瓶を埋めた。
隣にいる親友の涼花の顔をチラッと見る。中学は一緒だったものの部活が違い毎日のように話していた小学生の頃と比べて段々と話す事が減っていた。同じ小学校から来た友達とも段々と話さなくなる、部活の忙しさで部活の人としか交流が無くなる、それでも彼女だけは唯一ずっと連絡を取り合っていた。
ここまで来るともう腐れ縁だ、親友兼腐れ縁。
高校も大学も全く違うのに連絡は取り合うしお互いに休みなら遊びに行く、どんなに生活する環境が変わろうと会えばすぐに昔のように話は合うし言ってもいないその時ハマっている物が同じだったなんてもう当たり前だ。
「あ、市長の話終わった」
「市長の話聞いたら後は外出てもいいんだっけ?」
「そうそう、こんなド派手に振り袖着てるのに思ったより成人式って呆気ないんだね」
「確かに、この話聞くより地元の友達に会いに来たみたいなノリだよね」
お互い軽口を叩きながら歩きにくい靴で慣れない振り袖で外に出る。会場内は暖房が効いていてとても暖かかったが外は冷たい風が吹き寒い、流石に1月に振り袖だけでは寒い。
「行くよね、あそこに」
「当たり前じゃーん、前から楽しみにしてたの!夏果が私にどんなメッセージ書いてるのか気になって夜しか寝れなかった!」
「いつも通りでなにより」
会場からタクシーが出ていてそれに乗り込みお互いの家に帰る、1時間後にまた集合してタイムカプセルを掘り出しに行くんだ。
「おまたせー」
「いーえー、あっそれもしかして軍手?めっちゃ用意周到じゃん…」
「埋めた時素手だったから爪にたくさん土入って洗うの大変だったの思い出してさ、ズボラの夏果はそんな事思ってないと思って夏果分も持ってきたよ」
「流石涼花、だてに友達歴15年以上は違うねー」
「夏果の思考は分かりやすいからね」
何年ぶりへの小学校への道を歩く、中学は反対方面だった為久しぶりの道だ。
歩いていても私たちの会話は途切れない、途切れるより先に小学校へと着いてしまった。
「めっちゃ久しぶりーこんな感じだったっけ?」
「あー改装とか入ったんじゃないかな、なんか違う気がするし」
「流石に小屋の位置まで変わってないよね?」
「地面から違うからあそこは変わらないでしょ」
久しぶりの光景をただ見渡す、ここで転んだ事あったなとかこの水道使ってる時に壊れたよなとか、何気ない日々が思い出として蘇ってくる。
「ウサギ小屋、久しぶりだね」
「そうだね、ちゃんとウサギ達もいるね」
思い出より少し小さく古びた木造の小屋に自分の身長も視野も全てが広がっていた事に気付く。
私も大人になったんだ。
「…さて、タイムカプセルを掘り出しますか」
涼花が軍手を嵌めて大体の位置で土を掘り返す。
私も涼花の隣に置かれた私分の軍手を付け土を掘った。
「あれ、ここら辺だったよね?」
「多分そのはずなんだけど…」
10分程2人で黙々と土を掘り出していたがタイムカプセルは出てこない。
埋めたタイムカプセルはそこまで深く掘ってはいなく地面に出ない程度の深さだった為このくらい掘ってれば出てくるはずだ。
「肝心な時に見つからないやつだーこれ」
「えーここら辺に埋めたはずなのに……って待って!ガラスが見える!」
「え、ほんと!?私もそこ掘るよ!」
涼花が私の発見にすぐさま手伝いに来る、少しずつガラスが見えてくる。
そこで見えてきたのはガラスが割れて中の紙もないタイムカプセルを埋めた痕跡だけのものだった。
私は思わず言葉を失う、まさかガラスの瓶が割れていたとは思わなかった。
それでも涼花はもう1つを探すように近くを掘る、よく見るとまだ1つ分のガラスしかないのだ、それが分かり私も探す。
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