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葉桜と地底人
「やーい、できそこない!」
「おどおどしてて気持ち悪いんだよ!」
「地底人は地底に帰れー!」
自己主張が苦手でいつもびくびくしていた僕は、小さい頃からめっぽういじめられていた。
色白で気味が悪い、という理由で中学生のとき一部のグループに「地底人」という嬉しくないあだ名をつけられたのだが、うっかりそいつらと同じ高校に進学してしまったせいで、高校に入ってもいじめは続いていた。
僕は自分が嫌いだ。上手く話せない口も、つなぐ相手がいない手も、楽しい記憶を持たない脳も、僕には必要ない。いっそ生まれてこなければよかったのにと思う。
高校に入学して既に1ヶ月が経とうとしているが、友達は全くできていない。根暗な上にいじめられている人と仲良くなりたい人なんているはずがないのだ。
その日もいつものように僕はいじめられていた。
校舎の裏は暗くてじめじめしていて、誰も通らない。そもそも誰かが見かけたって、僕を助けてくれるとは思えないけど。
体の大きな同級生たちにボコボコ殴られ蹴られ、僕はもう気力を失っていた。体全部が痛い。このまま殴られ続けて死んでしまえれば、楽になれるのかな…。
そんな危険なことを考えていたら、何かを蹴るような音とひとりごとが聞こえてきた。
「あーもう、学校やめてえわ。つまんない連中につまんない授業……ん?」
僕を殴っていた同級生たちが動きを止めた。おそるおそる顔を上げると、川西篤志が立っていた。
授業は受けない、学校には来ない、悪い噂がいっぱいある不良の同級生。
川西はなんだかイライラしている。自分のカバンを蹴りながら歩いていたようだ。
「お前、川西だよな?西中で一番ヤバかったって噂の」
同級生の興味が僕から川西に移り、少しほっとした。このまま僕のことは忘れてくれればいいけど…。
しかし、問題の川西は、僕のことをじっと見ていた。
「お前ら何やってんの?」
「あ?ちょっとシメてただけだ」
同級生の1人が喧嘩腰にそう答えると、川西は続けて僕に尋ねてきた。
「お前、こいつらに何かしたの?」
「えっ…」
何かしたのか、と聞かれても。
「…僕が存在してるから」
「は?」
「僕がおどおどしてて気味が悪いから、嫌われてるんだ」
「へー…」
川西は僕の全身をじろじろ見ると、無表情でつぶやいた。
「キモいな」
「うっ…」
「ははっ!川西もそう思うよな」
同級生がそう言って川西の肩に触れると、川西は思いっきり嫌そうな顔をして振り払った。
「うるせーな雑魚どもが」
「はああ?お前調子乗ってんじゃ…」
同級生が川西に殴りかかろうとすると、川西は素早く避けそのまま急所を思いっきり蹴った。
「ぐあああっ!いてえ!」
「うわあ!」
「恐ろしい!」
「悪魔の所業!」
同級生たちはあっという間に逃げていった。
「あ、あの…」
びくびくしながら川西を見上げると、川西は初めてにこっと笑った。
「お前、名前なんていうの?」
「え…?東金廉…です」
「へー。よくいじめられてんの?」
「ま、まあ」
「じゃあ、俺がお前を守ってやるよ」
「えっ?」
「俺さー、めちゃくちゃ強いし、とんでもなく暇なの。だから暇つぶしに、お前を守ってやる」
「結構です…」
「はあ?ここ、感謝するとこだろ」
「や、僕、大丈夫なんで…」
「明日からずっとお前のそばにいるよ」
川西は手をグーにして僕の股間に向けた。
「な?」
「ふぁい…」
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