21人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
プロローグ
教会の裏では散りかけの桜の花に混じり、葉桜の枝が覗いていた。目を閉じて深く息を吸い込むと、優しい緑色のにおいがする。
そよかぜを感じながらしばらく目を閉じていたら、後ろからポンと肩を叩かれた。
「おい廉!こんな時に何ぼーっとしてるんだよ」
「…篤志」
振り向くと呆れ顔の篤志が立っていた。
「ごめん、すぐ行くよ。葉桜がきれいだなーと思って」
「葉桜ぁ?渋いなお前は。散った後の桜の木なんて何がいいんだか」
篤志は目をパチパチさせながら桜の木を見上げた。
「篤志と初めて会った時のこと、思い出すな」
「これくらいの時期だっけ?」
「そうだよ。あの頃も葉桜の季節だった。校舎の裏で、篤志の後ろに大きな桜の木が立ってて…」
「よく覚えてるな」
「僕にとっては大事な思い出だから」
「俺にとってはある意味黒歴史だけど」
大げさに天を仰いだ篤志を見て、ふっと笑いが漏れた。
本当に、大事な思い出なんだ。篤志と出会ったおかげで、僕の生活はガラッと変わったんだから。
最初のコメントを投稿しよう!