プロローグ

1/1
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

プロローグ

教会の裏では散りかけの桜の花に混じり、葉桜の枝が覗いていた。目を閉じて深く息を吸い込むと、優しい緑色のにおいがする。 そよかぜを感じながらしばらく目を閉じていたら、後ろからポンと肩を叩かれた。 「おい廉!こんな時に何ぼーっとしてるんだよ」 「…篤志」 振り向くと呆れ顔の篤志が立っていた。 「ごめん、すぐ行くよ。葉桜がきれいだなーと思って」 「葉桜ぁ?渋いなお前は。散った後の桜の木なんて何がいいんだか」 篤志は目をパチパチさせながら桜の木を見上げた。 「篤志と初めて会った時のこと、思い出すな」 「これくらいの時期だっけ?」 「そうだよ。あの頃も葉桜の季節だった。校舎の裏で、篤志の後ろに大きな桜の木が立ってて…」 「よく覚えてるな」 「僕にとっては大事な思い出だから」 「俺にとってはある意味黒歴史だけど」 大げさに天を仰いだ篤志を見て、ふっと笑いが漏れた。 本当に、大事な思い出なんだ。篤志と出会ったおかげで、僕の生活はガラッと変わったんだから。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!