She uses the key.

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She uses the key.

3 「え? 嘘だぁ。流石にヒントが足りませんよ。こんなの解ける筈が無い!」  七条君が喚くが、俺は彼の台詞を手で制した。分かってしまえば、これほど簡単な謎は無い。 「いや、君の言葉で分かったのさ。円に十二個のボタン。確かに、これは暗号だろうね」 「でも、一体、何の時刻を表しているって言うんです?」  俺は首を横に振り、「E to Z」のサインの場所を指差した。 「時刻じゃないんだ。いや、ものではあるが、具体的に『一時』とか『二時』とかを意味するものではない。あのサインをじっくりと見れば、分かる筈だけどね」  首を捻って考え込む七条君。そこに和気さんが助け舟を出した。 「もしかして、干支(えと)ですか?」  俺は頷く。「E to」をそのまま読んで「干支」だ。その後の「Z」もそれを暗示している。「干支」は英語で「Zodiac」だから。  そして、「to」という前置詞は英語の授業において、日本では「➝」として表されることが多い。俺の受験時代もそうだった記憶がある。これは「to」が到達を表すからだが、これを当てはめると……。 「E➝Z」 となる。つまり…… 「もしかして、『Eto(日本語)』を『Zodiac(英語)』に置き換えろってことですか?」  七条君がおずおずと答えた。俺は指をパチンと鳴らして頷く。七条君の言う通り、これは必要があるということだ。その証拠にボタンのアルファベットは 「Ne(子)➝Ushi(丑)➝Tora(寅)➝U(卯)➝Tatsu(辰)➝Mi(巳)➝Uma(午)➝Hitsuji(未)➝Saru(申)➝Tori(酉)➝Inu(戌)➝I(亥)」 と見事に十二支の動物の頭文字に合致している。  そして、これらの動物を英訳すると 「Mouse➝Cow➝Tiger→Rabbit➝Doragon➝Snake➝Horse➝Sheep➝Monkey➝Rooster➝Dog➝Boar」 となる。本当は子はRatだったり、亥はPigとアメリカでは訳すらしいが、この暗号では日本の一般的な英訳で考えたい。 「十二支は分かりましたけど……。結局、ボタンをどの順番で押せば良いんですか? 何と当てはめれば良いのか分からないんですけど……」  七条君がまたもや首を捻った。しまった。その説明を忘れていた。 「対応する文章は思い付く。俺達は扉を開けようとしているんだろう?」 「えぇ、そうですけど……」 「じゃあ、彫刻の中で扉を開こうとしているのは誰だ?」  俺の問いに七条君は少女像に指を差す。 「あれですよ。鍵を持っている少女の像です」 「だよな。つまり、使んだ。簡単な英語の文章にすると『She uses the key.』だろうな。これ以上、余計な単語を入れようとすると個人差が生まれるだろうからね。誰もが像を見て思い付く普遍的な英文はこれしかない。当てはめるべきはこの文章なんだよ。つまり……」  俺は手帳を取り出して、解法を書き出す。 「①She➝sheep➝未➝H  ②use➝mouse➝子➝N  ③s➝snake➝巳➝M」  ちなみにsでSheepを使わないのは、既に使われているからだ。一回押したボタンは二度は押せない。 「④t➝Tiger➝寅➝T  ⑤h➝horse➝午➝U  ⑥e➝『E to Z』のE  ⑦key➝monkey➝申➝S」 となる。Eのボタンが押せることは先程、確認済みだ。 「よし。これで……」  俺は順番通りにボタンを七回押した。「H、N、M、T、U、E、S」    キィ  ガチャン!  派手な金属音がした。音のした方に目を向けると、彫刻の扉が開いていた。  
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