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She uses the key.
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「え? 嘘だぁ。流石にヒントが足りませんよ。こんなの解ける筈が無い!」
七条君が喚くが、俺は彼の台詞を手で制した。分かってしまえば、これほど簡単な謎は無い。
「いや、君の言葉で分かったのさ。円に十二個のボタン。確かに、これは時刻と関係がある暗号だろうね」
「でも、一体、何の時刻を表しているって言うんです?」
俺は首を横に振り、「E to Z」のサインの場所を指差した。
「時刻じゃないんだ。いや、時を指し示しているものではあるが、具体的に『一時』とか『二時』とかを意味するものではない。あのサインをじっくりと見れば、分かる筈だけどね」
首を捻って考え込む七条君。そこに和気さんが助け舟を出した。
「もしかして、干支ですか?」
俺は頷く。「E to」をそのまま読んで「干支」だ。その後の「Z」もそれを暗示している。「干支」は英語で「Zodiac」だから。
そして、「to」という前置詞は英語の授業において、日本では「➝」として表されることが多い。俺の受験時代もそうだった記憶がある。これは「to」が到達を表すからだが、これを当てはめると……。
「E➝Z」
となる。つまり……
「もしかして、『Eto(日本語)』を『Zodiac(英語)』に置き換えろってことですか?」
七条君がおずおずと答えた。俺は指をパチンと鳴らして頷く。七条君の言う通り、これは干支の動物を日本語から英語に置き換える必要があるということだ。その証拠にボタンのアルファベットは
「Ne(子)➝Ushi(丑)➝Tora(寅)➝U(卯)➝Tatsu(辰)➝Mi(巳)➝Uma(午)➝Hitsuji(未)➝Saru(申)➝Tori(酉)➝Inu(戌)➝I(亥)」
と見事に十二支の動物の頭文字に合致している。
そして、これらの動物を英訳すると
「Mouse➝Cow➝Tiger→Rabbit➝Doragon➝Snake➝Horse➝Sheep➝Monkey➝Rooster➝Dog➝Boar」
となる。本当は子はRatだったり、亥はPigとアメリカでは訳すらしいが、この暗号では日本の一般的な英訳で考えたい。
「十二支は分かりましたけど……。結局、ボタンをどの順番で押せば良いんですか? 何と当てはめれば良いのか分からないんですけど……」
七条君がまたもや首を捻った。しまった。その説明を忘れていた。
「対応する文章は思い付く。俺達は扉を開けようとしているんだろう?」
「えぇ、そうですけど……」
「じゃあ、彫刻の中で扉を開こうとしているのは誰だ?」
俺の問いに七条君は少女像に指を差す。
「あれですよ。鍵を持っている少女の像です」
「だよな。つまり、彼女は鍵を使って扉を開けようとしているんだ。簡単な英語の文章にすると『She uses the key.』だろうな。これ以上、余計な単語を入れようとすると個人差が生まれるだろうからね。誰もが像を見て思い付く普遍的な英文はこれしかない。当てはめるべきはこの文章なんだよ。つまり……」
俺は手帳を取り出して、解法を書き出す。
「①She➝sheep➝未➝H
②use➝mouse➝子➝N
③s➝snake➝巳➝M」
ちなみにsでSheepを使わないのは、既に使われているからだ。一回押したボタンは二度は押せない。
「④t➝Tiger➝寅➝T
⑤h➝horse➝午➝U
⑥e➝『E to Z』のE
⑦key➝monkey➝申➝S」
となる。Eのボタンが押せることは先程、確認済みだ。
「よし。これで……」
俺は順番通りにボタンを七回押した。「H、N、M、T、U、E、S」
キィ ガチャン!
派手な金属音がした。音のした方に目を向けると、彫刻の扉が開いていた。
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