22人が本棚に入れています
本棚に追加
Time is money.
4
「よっしゃー! 一攫千金ですよ!」
七条君が扉に駆け寄り、箱の中に手を突っ込んだ。
「何が入っているんでしょうね。ピンクダイヤモンドとか龍涎香ですかね? これで大金持ちですよ!」
(お前の実家は老舗料亭だから金に困ってないだろうが!)
と心の中でツッコミを入れる。だが、正直、俺もワクワクしている。どんなお宝が飛び出すのか……。
「あれ?」
七条君は怪訝な顔で扉に入れた手を抜いた。手に握られていたのは金の懐中時計だった。針は正確に時を刻んでいる。和気さんがその時計を覗き込む。
「あぁ、これは普通の金時計ですね。売れば一万円くらいの値はしますけど、そこまで高価な物ではないです」
その言葉に七条君はへなへなと崩れ落ちた。
「マジか~。まんまと騙されましたよ! 江藤って奴、マジで許しませんよ!」
「いや、それは違うな。江藤氏は嘘を言ってはいない」
俺の口から漏れる台詞。俺は七条君から時計を受け取る。
「宝物について江藤氏は『我々が無意識のうちに探しているもの』と言っていた。それは時間だ。『時は金なり』って言うだろう? 就活中にふと思ったんだが、人間は常に時間の制約と戦っている。課題の提出、仕事の納期、そしてどんな人間でも死ぬまでのカウントダウンがある。つまり、人間にとって時間は幾億円にも勝る価値がある。この時計はそういう意味じゃないのかな?」
俺の台詞を聞き、七条君は黙り込んだ。
俺の手の中で懐中時計の針がチクタクと時を刻み続けていた。
(完)
最初のコメントを投稿しよう!