第一章

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第一章

 ジェニーは、力なく溜息をついた。春の風がジェニーの長い髪の毛を吹き上げていく。 今年15になる彼女の髪は、蜂蜜のような金色をしていた。瞳は深い海の蒼。虹彩に銀粉を散らしたような、不思議な色をしている。誰が見てもハッとするような美しい顔立ち。しかし、15には見えない小柄な体つきで、そのわりに長くしなやかな手足、骨ばった体つき。そのどれもが彼女を少年のように見せていた。 空はどこまでも青く澄み渡り、遠くへと続いている。雲がゆっくりと南から北へ流れて行く。雲の来た方角を見ると、遥か彼方に海が見えていた。 ジェニーは村から少し離れた草原の中の、小高い丘の上に立っていた。周りに咲く花々に、蜜蜂や蝶が楽しそうにまとわり付いている。世界は楽しい春。しかしジェニーは浮かない顔でもう一度溜息をついた。 おかしいと思っていた。自分は病気だと母に言い聞かされ、毎日苦い薬を飲んでいた。髪の毛も病気で白くなっているのだと、金色に染めていた。 しかし、何かが違った。幼馴染のキャサリンは胸も大きく膨らんできて、体つきも丸くなだらかな曲腺を描いている。唇もふっくらとして艶々と輝き、ジェニーが見てもドキッとするような、美しい娘に変わろうとしていた。 それに比べ自分はどうだ。ごつごつと骨ばった体つき。お世辞にもふくよかとはいえない唇。 ジェニーがそのことを母にそれとなく問うと、母は悲しそうな顔で彼女を抱きしめ「大丈夫よ。そのうちきっと良くなる。」と囁くのだった。私の病気はそんなに重いのかしら。母の顔を見ながらジェニーは、自分の命がもう残り少ないのではと、胸が苦しくなったものだ。 遠くでジェニーを呼ぶ声がした。見ると丘の下でキャサリンが、手を大きく振ってジェニーを呼んでいる。ジェニーは彼女を見て、自分の心臓が音高く跳ね上がるのを感じた。 これもジェニーを悩ませている1つだ。同じ女の子同士で在りながら、自分はキャサリンにまるで恋でもしているかのように、ドキドキしてしまうのだ。これも病気の影響なのかしら。ジェニーは、また1つ溜息をつくのだった。
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