5人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
それから、私たちは下町に移り住んだ。少しだけ、前よりはお互いの職場からは離れるけれど、飲食店や街角のお惣菜やさんも、人と人とのつながりが色濃く残り、温かい町だ。
やがて、次の更新時期を迎える頃に私たちは結婚した。
しばらくして、久しぶりの長期休暇で訪れた山梨を堪能し、住んでいる町に帰ってきたときの空気が全く違うことに驚いた。長らく自然を享受していなかったから、自然がないことにも慣れてしまっていたのだ。
その町を気に入っていた。それは間違いない。しかし私たちの中で、もっと緑に触れたいという思いもまた、間違いなく強くなっていた。小さな公園はぽつぽつとあるが、浴びるほどの緑は少ない。
数年前のように繁華街に夜繰り出すような生活からはしばらく遠ざかっていたし、彼は最近異動し、仕事柄、自宅でも仕事ができる環境になった。
何度かお世話になっている不動産の担当者に家賃相場や条件を相談すると、いくつか候補が送られてきた。
その中に、わたしの生まれ育った町が含まれていた。送られてきたメールの中に、その町の名を見つけたとき、拍子抜け、というよりか、私は不思議とどこかほっとした。
私たちは引っ越しを決めた。
最初のコメントを投稿しよう!