(二)ー2

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(二)ー2

* 半年前。  高校の入学式を二日後に控えている和希は先に祓魔庁討伐隊第四課の入庁式に出席していた。  四課は都心から離れた山の麓を拠点にしている。敷地の中心にある寺のような大きな建物が、四課の本堂。大きさは違うが似たような建物がいくつか立てられており、敷地はかなり広い。三十名以上いる新人は全員本堂の前に集められていた。  時間になると、本堂の正面出入り口からロングコートを着た女と、自分たちと同じ隊服を着た男が出てきた。  長官が着用するロングコートを見たその瞬間、新人たちは背筋を正し、敬礼した。  二人は新人たちがよく見えるように階段上で立ち止まり、女の方が敬礼を解くように手でサッと空を撫でた。 「今年もたくさん来てくれたね。ありがとう」  先に口を開けたのは女の方。  彼女が祓魔庁討伐隊第四課長官、芹沢朱莉。  顔の右半分が前髪で覆われ、見える左目は切長で涼しげな表情。長い髪は後ろでまとめられているが、だいぶ緩くしているのか、両肩に弛ませてある。右の横髪の一房には毛先に水色のリボンが付いている。  加えて、一応正式な祓魔庁の入庁式なわけだが、何故か彼女は両手をコートのポケットに突っ込んでラフなスタイルで立っている。優しそうな柔らかい表情からも長官の威厳というものは感じられない。  噂には聞いていたが、不思議な人物という印象を和希をはじめとする新人全員が受けた。 「この四課の規則だけど、知っての通り…三つだけ。自分の発言は絶対に守る事。発言に伴う行動に責任を持つ事。命を尊ぶ事。これさえ守ってくれたら、何をしても私は特に咎めたりはしないよ。まあ、規則を守っていても、世間的常識とされる感覚やモラルを逸脱すれば、私から怒られる事はなくても、仲間からの信頼を失うのは自分だから、その辺は気をつけてね」  言葉の最後に朱莉はにっこり笑う。  祓魔師に源流名家やその分家の生まれの人間が多いのは、そうだが、あまりにも危険なこの仕事を避ける人たちがいるのも事実。しかし、現存する源流名家は五つで、分家も全部で二十しかなく、人手不足が常。  そのため、正直滅多にいないが、資格を得た一般人にも門戸を開いているのだが、面白半分で来られては命を落としかねない。また祓魔師の家系の生まれでも、ただなんとなく、家がそうだから、というヤワな理由で来ても同様。  チームワークある組織を作っていくためにも、討伐隊全六課はそれぞれ、厳しい各課規則を設け、それによって人材選別を行う。祓魔庁はこれを長年暗黙の了解としている。  来る者拒まず、去る者追わず。  覚悟のない人間は容赦なく切り捨てる。  厳しい規則が各課に存在するが、それらに異議を唱えないのも、各長官が誰よりも各課規則を遵守し、偉業を成してきたからに他ならない。 「この規則は祓魔庁全体規則第二条一項により、勤務時間帯は当然、四課に所属している限り、私生活にも適応される。監視されているわけではないが、四課においては滅多な事を口走る事は薦めない。二項により、各課の規則違反は即刻退庁命令が下される。復帰は二年後に可能となるが、准隊員からのやり直しと一度退庁命令が下ったという経歴は残る。日頃から祓魔師としての自覚を持つように」  朱莉の隣にいた男がハリのある厳しい口調で話す。彼は副官の小牧壱誓。二十歳という若い青年だが、鋭い目付きだけで真面目で厳しい性格を思わせる。柔らかな雰囲気の朱莉とは相反しており、彼女とは良い意味で良い長官副官のペアになっているように感じられた。 「やっぱり四課にして良かったな」  和希の斜め後ろあたりから声が聞こえる。同期入庁の和希と同じくらいの歳の男が二人、話していた。 「他の課は規則多すぎて覚えらんねぇしな。すぐふるい落とされそう」 「簡単な方がわかりやすくて良いよな」  組織の規則というにはあまりにも少なすぎる四課の規則は、朱莉が長官に就任した際に作り替えたと聞く。  各課規則は入庁予定者、関係者には開示されており、新人はその各課規則の内容を見て、所属課を希望できる。規則が少なく、わかりやすい四課はここ数年、希望者が一番多い人気の課でもある。規則による、ふるい落とし形式の祓魔庁では、いかに生き残るかが鍵となるからだ。 「入庁して一年は准隊員という立場になる。この一年のうちは各課を約二ヶ月間所属する事を条件に自分の意思で異動出来る。その際は届出を忘れるなよ。移動先ではその課の各課規則に準ずる事。そこでの規則違反は同様に退庁命令だ。こちらでは対処しかねる」  壱誓が淡々と業務連絡を伝える。 「一年後、再度所属課希望届を提出して、正式所属となる。それ以降は人事課からの要請でしか基本的に異動はない。なお、なんらかの事情で自主退庁する際は届出を出しさえすれば自由だ。復職は手続きに少し手間取るのでよく考えるように」
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