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(零)
(零)
妖怪。
人型のもの、異形のもの。
姿形はそれぞれに、いつでも、どこでも古くから在る生物。
中には知恵を持ち、人語を操り、自らの妖力を自在に操る。
力を誇示するために人を襲いその愉悦に浸るモノ。又は人を嫌うが故、人間を近付けまいとするモノ。種別によっては人間を捕食するモノもいる。
そうして妖怪は人を脅かし、その存在は永きにわたって恐れられてきた。
*
ーザッ
二人組の男が立ち止まる。制服であろう同じジャケットを身につけ、その左胸には文字にも見えるデザインのエンブレムが施されていた。二人は祓魔庁と呼ばれる妖怪退治を担う機関の隊員だ。今も任務中で、妖怪を追いかけてきたが、逃げ込まれた洞窟の中では暗すぎて妖怪の動きが見えない。二人の隊員は目をよく凝らし、妖怪の妖気に注意を払う。戦闘体勢の妖怪は妖気が分かりやすい。その僅かな空気感を捉えるのだ。
ーキィィン!
奇妙な音に一人が振り返った。その瞬間、彼は首を斬られた。
ゴト…足元に転がる何か。もう一人の隊員は見えずとも、音と空気から伝わってくる生温かさからそれが仲間の首であると察する。
手が震える。彼は感じている恐怖に疑問を抱く。何故だ。自分たちが追っていた妖怪は大して強いモノではないはず。二人一組で行う通常の討伐任務でこんなに苦戦するなんて。妖怪退治なんて害獣駆除と同じ。ましてや自分たちはそのプロフェッショナル。様々な思考も恐怖に包まれ、彼の頭は今にも真っ白になってしまいそうだった。
ーガガッ
刃物が地面に擦れる音。隊員は音のした方を振り返った。振り返った目の前に自分の顔ほどの大きくギョロリとした目があった。
「ひぃっ」
思わず声をあげる。
ーズ
そんな音が聞こえた。隊員は何の音かと音がした自分の腹を見る。そこには自分の腹を貫いている妖怪の背中から生えた腕があった。一瞬で血の気が引いた。彼はそのまま気を失ってしまう。
ーズルッ
妖怪は静かに腕を引き抜く。隊員の体はそのまま地面に放り出された。血がついた腕もそのままに、妖怪は腕を背中に埋めた。
【グゥッ…】
妖怪が呻く。
【フツマシ…、ニンゲン…、キラ、イ】
辿々しいながら憎しみの籠った言葉を発する。
妖怪は倒れた二人の死体を横目にその場を立ち去った。
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