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(一)ー2
*
「はあああああ…」
誘導してきた林の中で足を止めた和希が深く息を吐く。
妖怪に対する恐怖心を持ちながら無我夢中で近くの林に向かって走ってきたのだ。体力気力、いつものことながら消耗が激しい。
和希を追ってきた妖怪も足を止め、爪を構える。その時。
ーザッ
突然片方の妖怪の背後から何かが飛んできて、その首を刎ねた。
もう一体が慌てて後ろを確認すると、ちょうど自分たちを追ってきた祓魔師の戸山が到着したところだった。するとすぐさま戸山の周りを、林に生息していた植物たちがうねうねと意思を持って動き、彼を守るように覆った。
蠢く植物のその雰囲気が仲間の妖怪の首を刎ねたのだと気付かされる。
「ここの植物は良い子ばっかりだなー」
悠長なことを言いながら戸山は傍の植物を撫でる。
大昔、陰陽寮に所属する陰陽師の中でも十の家系が祓魔師を担っていた。
彼らは妖怪に対抗するため、自らの長が妖怪と交渉し、妖力を得ることに成功した。
以来それぞれの条件の元、妖力は代々受け継がれる事となった。しかし、受け継がれるのは妖力という力のみ。強力な妖怪から妖力を得ても、子孫たちは必ずしも強い妖力を持って生まれるわけではない。
祓魔師は自身の妖力の大きさに合った妖術を身に付け、これを以って妖怪退治を行う。
戸山景親は植物を自在に操る妖術を持つ。
首をはねられた妖怪の胴体と首がゆっくりだが徐々に元に戻っていく。その姿を見て戸山は苦笑した。
「首じゃねえのな。倉林、妖天穴見えるか?頼むわ」
「……はい!」
少し躊躇ったが、和希は視界に妖怪を捉えて一度目を閉じ、力を込めて見開いた。
その目は黒に染まり、瞳は赤く、およそ人の目とは呼べない。
和希はその目を通して妖怪の右腕から光るものを視た。
「右腕です!」
「おっしゃ」
戸山が次の攻撃に備え、和希の言葉とほぼ同時に構える。すると、再生途中の妖怪が突然ぐにゃりと歪んだ。
「は?」
戸山が目を丸くし思わず声を出す。和希も怯えながら目の前の不思議な光景を見ていた。
ーグチャ、グチャ
無言のままに、でも頭についた大きな一つ目は戸山と和希をしっかり見据えながら、妖怪は仲間を捕食する。
「…マジか」
妖怪による人の捕食事例は昔からあるものだし、妖怪が妖怪を捕食する事例も無いわけではない。
が、かなり少ない。その場合は異種の場合が多く、同種の捕食事例は聞いた事がない。妖怪は仲間意識が強いからだ。
ましてや二人の前にいる妖怪は、少なくとも先ほどまでは、言葉を持たずとも仲間意識を持った妖怪だったはず。だから目の前で行われている事に理解が追いつかない。
何が起こっているのか、これから何が起こるのか、異常事態である事を理解しているからこそ、下手に先手を打って攻撃する事が出来ない。
早々に仲間を食べ終えた妖怪は、最後の一口をごくんと喉を鳴らし飲み込むと、再びそのギョロリと湿った目で和希と戸山を見つめた。
「戸山さん!妖天穴が二つあります!」
「食った仲間の分も混じったか。めんどくせ」
一体につき一つある、妖天穴と呼ばれる妖怪の命ともいえる弱点。妖力の源でもあるこれを祓魔師は通常、破壊し、結晶になった妖石を回収する。
異種捕食の場合でも捕食後すぐに取り込まれるわけではない、ということは二人とも知っている。
今の状態を見るに、同種捕食でも同じといえる。
次の段階として二人が考えなければいけない事が、妖力のパワーアップだ。
参考図書による異種捕食の記述では、二体分の妖力を保持するためその分強くなる。同種捕食は例がないため、この後の判断ができない。
目の前にいる妖怪が低級であれど、パワーアップするのか、パワーアップしてどれほどのものなのか。
「常に隙を狙っていくぞ!」
「はい!」
とはいえ、拮抗状態を長引かせるわけにもいかない。
圧倒されながらも和希は戸山に続いて妖怪に斬りかかって行った。
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