(二)ー1

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(二)ー1

(二) 「と、まあこんな感じだっだわけ」 「無事で良かったな」  次の日。戸山は祓魔庁討伐隊第四課がある敷地内の道場で同僚の白石透と三崎豪に昨日の話をしていた。  あの後二人はなんとか妖怪を撃破。案の定パワーアップはしていたものの、異種捕食同様、二体分の妖力を保持していただけなのと、捕食直後だったため、妖怪も慣れていなかったようで、力を使いこなせていなかったことが功を奏した。  無事、二つの妖天穴を破壊、出てきた二つの妖石回収にて幕を閉じた。  大きな怪我もなく、和希が襲いかかって来た妖怪に驚いて尻餅をついたくらいだ。しかし、相手の戦闘力よりも理解できない状況下での戦闘は祓魔師になって数年の戸山でも精神にくるものがある。  疲れが尾を引いてぐったりしている戸山を見て白石が笑う。 「一本!」  戦闘稽古で審判が勝者に向けて手を挙げた。  祓魔師は日々の戦闘に備えて、用事がない時は基本的に日中、戦闘訓練を行っている事が多い。今もその真っ只中。  審判の手が向いている方には和希が木刀を構えて立っていた。 「ふー・・・」  大きく息を吐く。 「倉林、強いなあ」 「対人なら、ね」 「いいじゃねえの。祓魔庁でじゃ褒められたもんじゃねえけど、この四課で生き残ってるんだ。褒められなきゃやってらんねえよ」  和希は今年入ってきたばかりの十五歳の新人で准隊員。  しかし剣術の腕前は早くも四課で一番なのではないか、そう噂されるほど強い。ただし妖怪が苦手なため、対人のみ。  和希は対戦相手の先輩、天道惇太に駆け寄って申し訳なさそうに手を貸す。 「さすが倉林家のお坊ちゃんだよな」 「!!・・・いや、それは、ないです」  和希は言われた事にギクリとする。  倉林家は祓魔師が妖力を持つようになった頃から代々祓魔師をしている由緒正しい家柄だ。  十の家を「源流名家」といい、そのうち半数は解体されたものの、分家は全て現存しており、今もなお多くの祓魔師を輩出している。  和希自身、父が倉林家当主で祓魔庁討伐隊第一課の長官なため、人からの視線には痛いものがある。 「そういえば、どうして四課来たの?ウチ、倉林の人いないけど」 「いないから、です」  親戚がいないという理由で四課配属を希望した。隠すも何も、という感じなのもあり、和希は苦笑しながら答えた。  悪いとは言わないが珍しい理由に戸山、白石、三崎、天道の四人は顔を向き合わせたが、和希の事情を考えれば、なんとなく察しがついた。 「まあ、親戚付き合いって面倒だわな」 「分かるわー。大体親戚しかいないしな、祓魔師って」 「知ってる?俺と透さん、はとこ」 「倉林の人は結構一課に集まりがちだよね」 「父が長官なので…」 「わかる。親戚で課に集まりがちな。一年中正月みたい」  ははっと軽く笑う和希。  四人は自分たちよりうんと年下の少年が抱えている問題を複雑に感じていた。  祓魔師たちの中では有名な話だ。  和希は六歳の頃、目玉しゃぶりという妖怪に目を呪われてしまった。  すぐに死んでしまう呪いのはずだが、和希の妖力及び妖術の特性で、現在はその呪いが発動していない状態なのだ。  しかし、いつ呪いが発動するか分からない状態は不安を煽るばかり。しかも呪われたのに自信の力によって発動していないというのは、かなりのレアケースで、腕利きの呪術師でも解く事ができず、とりあえず呪いの元凶である目玉しゃぶりをどうにかしようと、憶測だけが立てられた。  和希の両親は解決法を周りに頼り切るのではなく、源流名家であるというプライド以上に彼を祓魔師として厳しく育てる事にした。  いつ来るかわからない、いつか来る、目玉しゃぶりとの対決に向けて。  そして現在。  呪われたあの日から、和希は両親の想いに応えたくて厳しい訓練に耐えてきたが、幼い時の事件からすっかり妖怪嫌いになってしまった。  この世に少なくとも危害を加える妖怪が好きな人はいないと思うが、それでも祓魔師としては致命的である。あまりに怖がるため、源流名家だけに許された十二歳で入庁できる祓魔庁の早期入庁制度も見送り、一般入庁の十五歳で入庁した。 「やっぱり倉林の千里眼って便利だよなー」  戸山は話題を変えようと昨日の妖天穴を見抜いた和希に感心した。 「どこまで視えるの?」 「僕自身の妖力が小さいので長時間は出来なくて。距離があればあるほど視える時間は短くなります」 「目の前の妖怪の妖天穴見えりゃ充分だろ」 「先見は出来んの?」 「五秒先が限界です。使えて一日一回。肝心な時に妖天穴見えなくなるも嫌ですし、あんまり使いたくないんですよね。非戦闘タイプなのもネックというか…戸山さんみたいな触媒による攻撃が羨ましいです」 「あれも結構大変だったのよ?」  戸山は和希を慰める。  祓魔師は基本的に妖怪の妖力を受け継ぐが、稀に妖怪の妖術も一緒に受け継ぐ者が生まれる。  彼らを先祖返りといい、和希は倉林家の妖力の元になった千里眼の鬼の先祖返り。  他の祓魔師とは違って自身で妖術を得る事が出来ず、使える妖術は千里眼の鬼が使える妖術のみ。加えて本人の妖力の大きさで使用限度がある。妖怪が苦手な和希からすれば、遠距離から攻撃が可能な戸山や他の隊員たちの妖術が羨ましくて仕方がない。しかし、先祖返りが稀な上に妖天穴が見えない他の隊員からすれば、和希の千里眼も中々羨ましいものだ。  和希の目にかかった呪いの発動を抑えている和希の体質とは、目に宿したこの千里眼の事である。 「惇太も先祖返りだよな」 「肉体強化だけなんで技術力は俺次第ですよ。ちゃんと鍛錬しとかないと体が持たねぇ」  先祖返りって不便だよなーと天道は和希に笑いかける。たしかに自分の好きに妖術を会得できないのは不便さがあるが、自分に合った妖術を身に付けるのも訓練がいるため、不便さ、大変さという点において同等といえるだろう。 「鍛錬で思い出したけど、鍛錬なしで妖怪十体倒すって息巻いてた新人は?見ねえけど」 「お前が遠征行ってる時に出てったよ」 「なんで」  戸山は和希と同期入庁した新人の顔を思い出し、白石に聞いた。  任務に出ているかと思ったが、違うようだ。しかし戸山はさほど驚きもせず、なんとなく理由は察した上で白石に聞き返す。 「規則違反。任務で当たった二体の妖怪が妖力化かしてて一体も倒せずに尻尾巻いてべそかきながら帰ってきたの」 「あ、マジで全く鍛錬出てなかったの、あいつ」 「全くでした」 「誘ってみたりしたんだけどねえ」 「鍛錬なしで、とか…。今まで弱っちい妖怪しか倒した事なかったんだろうな」  和希は同期の彼の事を思い出したが、あまり話した事が無く、思い出せるのはかなり強気だった事くらいか。  同時に四課の規則を改めて思い出す。
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