(二)ー3

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(二)ー3

*  たった三つしかない四課の規則。単純で簡単だが、私生活にまで影響するという全体規則の下では、慣れていない者に対してとても厳しい現実を与えた。    半端な発言は常に自分を苦しめ、喋ることもままならず、ストレス過多になった者は他の課へ移ったり、何気ない発言の責任発生により、結局その発言に対して責任を取れず、退庁命令が下った者などが多数名続出した。まさに口は災いの元を体現した規則である。  常に意識という意識を持たなければいけない。  気の緩みが生死に関わると思えば、気が引き締まる良い規則という見方もできる。  そんなこんなで入庁からの約半年で、三十人以上いた新人は和希を含め、三人にまで減った。  聞けば多い方だと和希は先輩たちから聞いた。ひどい時はゼロもあり得るそうだ。 「鍛錬せずに妖怪倒せたらかっこいいよな」  戸山が煽り笑う。 「そうなるための努力はしてなかっただろ」 「鍛錬せずにーの部分を破ってでもせめてちゃんと鍛錬出てたら、甘いお嬢は見逃しただろうにね」  長官の朱莉より年上の隊員たちは皆、彼女のことを「お嬢」と呼ぶ。特に朱莉より先に四課に所属していた隊員たちは。  彼女は入庁時から秀才と言われ、あれよあれよと成功をおさめ、十八歳で長官に最年少で就任した。 「四課の規則、芹沢長官が長官に就任した時に作ったって聞きましたけど、元々四課にいた人たちとかから反発なかったんですか?」 「無かった。どっちかっていうと長官会とか源流名家がちょっとうるさかったって聞いたな」 「ウチではお嬢が長官になる事も反発無かったしな」 「いいんじゃない?って感じ」 「めちゃくちゃってわけじゃないけど、前の四課って今より生ぬるいっていうか、荒れてたっていうか…あんまり良い雰囲気じゃなかったから」 「そこに改革を起こしたのがお嬢ってこと」  和希はそこまで聞いて、昔読んだ漫画を思い出した。  新入生が荒れてた学校の番長になる的な学園ものの漫画だ。 「昔、任務会議が朝からあって、それに大遅刻した奴がいたんだよ」 「いたな!確か遅刻は別に規則に関わらないし、自分も遅刻に関する発言してないから、とかなんとか言ってたな」 「そう。それでお嬢もいいよって許したんだよ。お嬢はもうちょっと人の遅刻に文句言ってもいいのに」 「お嬢、人の遅刻興味ねえよな」 「お嬢は人に興味無さそう」  戸山たちの脱線に話し始めた白石が咳払いをする。 「そいつ元々あんまり勤務態度良くなかったのもあるけど、資料も渡したのに目通してなくて。いざ任務って時に焦って骨折ったの」 「自業自得、ですね」 「それだけなら可愛いもんだよ。そいつその前の日に、大怪我してた同期馬鹿にして、そんなんじゃ祓魔師は務まんねえよとか、俺ならそんなヘマしないとか言ってたんだよ」 「うわあ…」  和希は事の顛末が見えて、過去にいた先輩にドン引きする。同時に同情する。 「それが自分に巡ってきたもんだから、一生懸命お嬢に弁明してたけど、お嬢はにっこり」 「そしてばっさり」  退庁命令を下されたというわけだ。  誰も聞いてないような発言も意外と誰かに聞かれていたりするもの。すべて、というわけではないが、少なくとも輪を乱すような発言は誰かしら覚えているし、その都度朱莉の耳に入る。  不用意な発言は仲間との信頼にも関わる。だからこそ、朱莉はその発言内容の一切を隊員それぞれに委ねるのだ。 「ここの規則、簡単に見えるだけで、網目ガッバガバのざるみたいなもんだろ。ヤワな奴はバンバンふるい落とされる。イチャモンの付け方によってはしがみつけるけど、まあそれもじきに辛くなってくるしな」 「何よりお嬢が一番徹底してこの規則守ってるもんだから、こっちも下手に揚げ足取れないし、守るしかないよねえって。慣れてくれば全然余裕だし、自由だから俺は気に入ってるけど」  朱莉が長官になって八年ほど。朱莉より先に所属していた隊員たちも現在も四課で隊員をしているということは、戸山たちもしっかりこの規則を守っているということだ。簡単に見えて簡単でないこの規則を守ることも四課では実力のうちになる。和希は他の課と雰囲気が違う理由は規則以外にもあるように思えた。 「倉林も自分が言った言葉の意味をちゃんと理解してないと痛い目見るぞ」 「気をつけます」 「何も今すぐに有言実行しなくちゃいけないわけじゃない。時間をかけてたって良いんだから、姿勢が大事だよって話。ウチの長官はそういうとこちゃんと評価してくれる」 「まあ、命の責任の取れない発言をしない事が一番無難だな」 「お前は当面、妖怪に慣れるこった!」 「う…はい」  先輩たちのアドバイスに和希は頷くが、最後の天道の言葉で心を刺された。  和希の返事を聞いて四人はニヤリと笑う。 「「「「はい、言質取ったー」」」」  (やられた…!)  和希はしまったと苦い顔をする。時間をかけてもいいと言ってくれた彼らだからこそ、彼らが意地悪でこう言ってきたのではないと和希もわかっている。  和希の実力やポテンシャルなどを見込んでくれているのだろう。和希自身もいつかはちゃんとそうしなければと思っているので、言われたことを甘んじて受けた。
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