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(二)ー4
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「くしゅん」
四課本堂の二階にある執務室で書類作業に追われている朱莉がくしゃみをした。
「珍しいですね」
「誰かが噂してるんですよ!一回すると悪い噂って聞いたことがあります!二回すると良い噂!」
くしゃみをした朱莉を壱誓と佐々木虎太郎が気にかける。
虎太郎は今年和希と同期入庁した新人で、源流名家佐々木家出身である。早期入庁制度を使った入庁のため、彼の年齢はまだ十二歳。元気いっぱいの虎太郎は既に四課のマスコットだ。
「う〜ん。参ったなあ。また美人を妬まれてしまったかー」
「…どういうポジティブですか」
「ネガティブより良いでしょ?」
「確かに!」
朱莉の声に感情が籠っていなかったが、虎太郎は朱莉に羨望の眼差しを向ける。
虎太郎にとって朱莉は姉弟子で、小さい頃から面倒を見てもらっており、朱莉の長官としての手腕や妖力・妖術を尊敬している。そのためか、虎太郎は朱莉の事に関しては全肯定する癖がある。
これを壱誓をはじめ、四課隊員たちは良いのか?という疑問を常に抱えている。
「壱誓、これ目通しといて」
朱莉が一枚の書類を壱誓に差し出す。今朝戸山からもらった昨日の妖怪についての報告書だ。受け取った彼は書類に目を通すなり、訝しげに目を細めた。虎太郎も横から頑張って背伸びをして覗こうとするが、壱誓の背が高いことと、内容が難しくてよく分からないようだ。
「これ…」
「最近ウチの管轄で一体なのに妖天穴が二つある妖怪がいるって報告が二、三件あったのよ。原因がわからなかったんだけど・・・。討伐に時間がかかるのは別にいいんだけど。現に対処できてるし、突然変異の類かなって思って、もうちょっと資料と報告集まったら〜とか思ってたけど・・・。同種捕食となればちょっと早めに腰を上げなきゃいけないね」
「事例がないですね」
「この前、三課の隊員が行方不明になってね、調査したら妖怪に殺されたっぽい死体で発見されたのよ。案の定検死結果で妖怪の仕業って分かったんだけど、その隊員たちが追ってたやつ、低級の蛇腹女のはずだったらしくてね、現場に妖石も無かったから今もどこかにいるでしょうね」
「蛇腹女なら強くても中級のはずですが、その程度で祓魔師が殺されるなんて・・・新人ですか?」
「・・・五年目と十六年目。大ベテラン」
名前こそ挙げなかったが、朱莉は面識があるようで、少しその声に重たさを感じた。
「あまりにも不明だから三課以外は長官止まりの情報かつ、特に何も調査命令も出てない」
「・・・俺に教えていいんですか」
「教えたって何もできないわよ」
壱誓は書類から目を離し、朱莉を見る。朱莉は困ったように口を尖らせていた。
「昨日、戸山と倉林が遭遇した妖怪。何か異変が起きたわけではないのに、突然仲間を食べた。これも明らかに異常事態でしょ」
「仲間を食べた⁉︎」
やっと会話の中に入れた虎太郎が驚く。
「ど、どういう事ですか⁉︎仲間って同じ種類って事ですよね⁉︎」
「そうなのよねえ。なーんで食べちゃったのかな〜」
朱莉はデスクに頬杖をつく。
「異変が起きたわけではないのに…」
壱誓が呟きながら考える。朱莉は彼を盗み見、優秀な側近の言葉を待つ。
「既に異常が起きていた場合はどうですか?」
「戸山と倉林が遭遇する前に、妖怪に異常が起きていたって事?」
「はい」
壱誓の推理に朱莉はふむ、と唸る。
まだまだ詳しい事が分からないため、調査が必要になってくるが、何も無いよりある程度視点の絞り込みは必要だろう。朱莉は少し考えてから手を打った。
「今回はそれでいこうか。まずは異常が窺える報告書がどれくらいウチにあるか調べよう。その後に他の課から同じような報告書もらう。虎太郎、この事は家の人にはまだ内緒にしててね」
「わかりました」
「はい!」
朱莉の指示に壱誓と虎太郎が頷く。
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