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異変に気づいたのは正午過ぎだった。昼食を摂ろうと購買に向かう途中、ポケットの中で手が空を切った。そこに有るべきものが無かったのだ。
その瞬間、思考は停止した。時間にして、ほんの数秒だっただろう。やがて胸騒ぎが芽生え、不安を呼び寄せた。
どうやら僕は酷く取り乱していたらしい。
「どうしたの、顔色悪いけど大丈夫」
クラスメートに声をかけられて、ふと我に返った。よく覚えていないが必死になって取り繕っていた気がする。
少し落ち着きを取り戻してからは自分に言い聞かせていた。ポケットに入れたつもりになっているだけだ、部屋の机に置いたままなのだ、そうに違いないと。
言い聞かせてはみたが、やはり気が気でなかった。一刻も早く、自宅の部屋を確認したい衝動に駆られ、その後は授業どころではなかった。
幸い、部活は顧問の都合で休みだったため、大急ぎで帰宅することができた。
家に帰り着くと脇目も降らず自室を目指した。そして無我夢中で探索し始めた。
しかし期待とは裏腹にそれを見つけることはできなかった。
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