探しもの。

5/6
前へ
/6ページ
次へ
「ヒロアキ、晩御飯出来たからテーブル片付けて」 僕を呼ぶ、母さんの声が聞こえてきた。 「うん、すぐやるよ」 絶望から解放されて、足取りは軽い。上機嫌でダイニングテーブルに置かれた物を片付けていると、姉ちゃんが台拭きを持ってきた。 片付けを待ってテーブルを拭き始めた姉ちゃんだったが、ふと手を止めてつぶやいた。 「ヒロアキ、今朝はゴメンね」 視線を合わせず、気まずそうに言った。 あの事を言っているんだなと、すぐに察しがついた。 今朝、トイレを使う順番が原因で取っ組み合いの喧嘩をしたのだ。僕がトイレの前に立ち、ドアノブに手を伸ばしている時に割り込んできた。明らかに姉ちゃんに非があった。 我が家では姉弟ゲンカは日常で、特に珍しくも何ともなかった。それよりも姉ちゃんから謝って来るのは珍しい事だった。 気分は最高潮だ。今朝のいざこざなんて、そんなちっぽけな事はどうでもよかった。 「僕の方こそ、ごめん」 先に掴みかかったのは僕だった、その事について素直に謝った。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加