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映子はごく華奢だし、色白で童顔の、かわいらしい顔立ちをしてた。
正直言って、見た目だけなら莉々子の好みだったのである。
だから、自然と警戒心は弱まった。
『すごく緊張しているみたい。あまりこういうお店には来ないんですか?』
『はじめてなんです。』
『はじめてなんだ。じゃあ、お祝いに1杯奢らせて。』
そう言って映子は、ロゼのワインを1杯ごちそうしてくれた。
お酒に慣れていなかった莉々子は、その1杯でぐらぐらになってしまった。
そして、映子にお持ち帰りされたというわけだ。
もちろん莉々子にとって、女との性行為もはじめてだった。
それなのに、映子は容赦なかった。躊躇い、逃げ腰になる莉々子を抑え込み、征服した。それは、随分と暴力的なセックスだったのだ。
莉々子の身体には、映子の手型や歯型がいくつも残された。
莉々子が忘れさえすれば、それきりになるはずの関係だった。少なくとも映子はそのつもりだったのだろう。けれども莉々子は、レズバーに通い詰めた。
ちょうど一週間後、レズバーに姿を表した映子は、莉々子の姿を見て酷薄に笑った。
自分がその女に全然好かれていないことを、その表情で莉々子は悟った。何なら薄っすらと疎まれていることにすら。
それでももうその時には、莉々子は映子に恋をしていた。生まれてはじめて、自分でも制御のしようがない感情を覚えていたのだ。
そのころ映子は、定宿を持っていなかった。
だからだと思う。だから映子は莉々子の気持ちを受け入れた。少なくとも、受け入れたふりをした。そうすることで、宿を手にするくらいの意識しか映子にはなかったはずだ。
その夜、莉々子は自分の部屋で映子に抱かれた。そしてそれが何らかの許可を映子に与えでもしたように、彼女はその夜から莉々子の部屋を定宿にし始めた。
定宿といっても、あの女は気が向いたときにふらりと現れては莉々子を抱き、またふらりといなくなった。
そのたびに、莉々子の枕元には手紙が残されていた。
内容は大体決まっていて、しばらく留守にします。探さないでください。とか、そんなもの。ときによっては、誕生日おめでとう、だとか、メリークリスマス、だとか、ふざけているとしか思えない文字列も並んでいた。誕生日は、普通に全然違う日付だった。
それでもその手紙は、不実な女の最後の誠意に思われた。だから、莉々子にはどうしてもその手紙を捨てることができなかった。
バカにされていると思っていても。
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