再会

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再会

◆ 再会 ◆ 「終ったか。でも、あんた、本当にこれで良かったのか?」 突然、背後で誰かの声がした。若者の声だった。 私は驚き、眼を見張った。若者と同じ姿と声をしたもう一人の若者が現れた。私のいる光の横を通り、私をいたぶった若者に近づいて行く。 私をいたぶった若者が、現れたもう一人の若者の方に振り向いて涙を拭った。 「ええ、終ったわ。いいのよ、これで・・・」 振り向いた若者の声が変わっていた。それも、私のよく聴き覚えのある声に。 「しかし、俺はあんなに凶悪かね?あれじゃ、ただの頭のイカレた異常者じゃねえか。」 「ふふ・・・ごめんなさいね。だって、時間もなかったし・・・私、とにかく必死だったから・・・あなたには申し訳なかったけど、あなたを少しオーバーに演じちゃったわ。」 「少し?・・・あれがか?」 「ごめんなさいね、許してね。」 「まあ、いいさ。それにしても、あんた、女優だった訳でもないくせに、なかなかの迫真の演技だったじゃねえか。」 「ふふ、ありがとう・・・と言うべきかしら?」 私をいたぶった若者の姿が変容し始めた。そこに現れたのは・・・ 「小枝子・・・」 妻の小枝子だった。 ― 何故・・・何故、小枝子が・・・いったいこれは・・・どういう事なんだ? ― 驚きと動揺が私を襲う。それと同時に涙が溢れ出した。もう一度逢いたかった妻が、小枝子が眼の前にいた。 小枝子の姿が涙に霞んだ。私は慌てて涙を手で拭った。再び逢えた妻の小枝子から一瞬たりとも視線を逸らす事は勿論、その姿が涙で霞んで見えなくなる事など自分に許したくなかった。 嘘でも、まやかしでも、夢でもなんでも良かった。もう一度逢いたくとも叶わぬはずだった小枝子の姿を、今こうして再び、はっきりとこの眼にする事が出来たのだ。 だが、自分自身のその思いとは裏腹に、湧き溢れる涙を止める事が出来なかった。何度も何度も、私は手で涙を拭った。涙を拭い続けながら、小枝子を見つめた。 「小枝子・・・」 小枝子に触れようと手を伸ばし、私の意識は光の中から抜け出そうとした。 だが、実体のない意識でしかない私は、光の中から抜け出す事が出来なかった。何度試みても、どうしても抜け出す事が出来ない。 「小枝子~!」 私は叫んだ。せめて声だけでも、私が此処にいる事だけでも小枝子に伝えたかった。だが、その声さえもが、この光に遮られているのか、小枝子はなんの反応もしなかった。私は何度も何度も妻の名を叫び続けた。 「無駄だ、やめとけ、オッサン。」 光の中で声がした。若者の声だった。 「そこに、すぐそこに、妻が、小枝子がいるんだぞ!なぜ、触れられないんだ!なぜ、言葉を交わす事さえ許されないんだ!」 小枝子の姿を眼にし、私は自分を見失っていた。 「無駄なんだよ、オッサン。」 まるで私に同情し諭すかのように、若者が低く静かに言った。 「生者が生者のままで死者の世界に足を踏み入れる事は勿論、たとえ実体のない意識であろうと、生者が死者に直接触れる事も、言葉を交わす事も出来ないし、許されないんだ。 しっかりしろ!オッサン。あんたに出来るのは、二度と眼にする事の出来ない彼女の姿をその眼に焼付け、彼女の想いと言葉を、しっかりと自分の胸に刻む事だけだ。」 私は泣き崩れた。抗いたくとも抗う術はなく、その事を受け入れざるを得なかった。 「さあ、立てよ、おっさん。立って、しっかりと彼女を見つめ、彼女の想いと言葉を自分の胸に刻むんだ。」 若者の声に叱咤され、私はヨロヨロと立ち上がった。 止めどなく零れ落ちる涙を拭いながら妻を見つめるために。そして、若者の声が言う、妻の想いと言葉を胸に刻みつけるために。
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