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後は若い2人で
ラウンジを出ると『後は若い2人で』と言わんばかりに、私達は無理矢理2人きりになった。
母は去り際に小声で
「失礼のないようにね。」
と、しっかり釘をさした。
「では、行きましょうか。」
彼に促され、2人で歩き始めた。
ホテルのロビーから階段を上って、中二階にフレンチレストランがある。
彼はさりげなく、私の腰に手を回していた。
今まで男性にされた事のない仕草に私はドキドキして、相手に鼓動を聞かれるのではと思うほどだった。
「予約をした城戸です。」
彼は私を座席までエスコートしてくれた。店内の装飾は豪華で、制服姿の自分が浮いてるようで後悔した。
(学校終わりに呼び出さなくても。
せめて、可愛いワンピースを着て来たかった。)
座って下を向いていると、彼が話し始める。
「改めて、城戸聡司です。」
「はじめまして、伊藤紫です。」
「高校何年生?」
「…三年生です。」
彼は困った顔をしたように見えた。
騙されて呼び出されたお見合い相手が、高校生の私でガッカリしたのだと思うと、申し訳なく思った。
「32歳の独身男で長らく恋人のいない私を、親が心配して見合い話をたくさん持ってきまして。
何だかすまなかった。
見合い相手がこんなオジサンで、落胆したでしょう?」
とても32歳とは思えない容貌に、私は首を横に振って答えた。
「いいえ、とんでもないです。
かえって高校生の私が、お見合い相手で申し訳ないです。」
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