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「好きな…、う〜ん。あっ!
大空を かよふまぼろし 夢にだに
見えこぬ魂の 行く方たづねよ」
私は光源氏が詠んだ和歌言うと、彼は首を捻った。
「何故その和歌が好きですか?」
「紫の上を亡くした光源氏が、夢にも見ない彼女の魂を探してほしい。そんな風に想われたいから。ちょっと、恥ずかしいですけど。」
私が恥ずかくて下を向いていると、彼が優しい眼差しを私に向けて呟いた。
「紫さんは、可愛らしい女性だ。
私は、…」
そう話していると落ち着いた店内からは、そぐわない男性の大声が聞こえた。
「聡司君じゃないか!久しぶりだね。
お父様は元気かね?
ここには妹さんと食事かな?」
一方的に喋ってこちらのテーブルに、小太りの男性が歩いてくる。聡司が冷たい視線を向け、立ち上がりながら言う。
「落合先生、お久しぶりです。
私には妹はおりませんが。」
「そうかい。ところで私の娘を是非とも、君に紹介したいんだが会ってくれないだろうか。
私の娘は、なかなかの美人でね。」
「落合先生、美人であろうと興味がありません。何度も断ったはずですが。」
聡司が少し怒ったような口調で答えた。やはり、聡司は女性に興味が無いのかと落ち込んでしまった。
その時、聡司が座っている私の隣に立って、肩にそっと手を置いた。
「私は彼女とお見合いを終えて、
2人でデート中です。
彼女の前で、はっきりとお断りします。」
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