54人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
落合先生は制服姿の私を見て、嘘をつくなという目を聡司に向けている。
私は言い訳でも聡司が、デート中だと言ってくれたのが嬉しかった。
「彼女は母の知人のお嬢さんなんです。
それにこちらとしては、デートを邪魔されて不愉快ですね。」
そういうと聡司の戻れと言わんばかりの態度に、落合先生は謝罪をして汗をかきながら去っていく。私は心配になり、彼を見上げた。
聡司は傍で微笑んで、
「ご心配には及びません。
落合先生は父の後輩で、しつこく自分の娘を私に紹介したいと言ってきて。
正直、困っていました。
それに母の知人のお嬢さんと分かれば、私に娘を紹介したいとは言えない筈です。
母が落合先生の娘さんを気に入っていれば、
今日のように無理矢理にでも見合いをさせただろうし。」
そう言われて、ホッとした。
彼の仕事に支障が出ては、本当に申し訳ないから。彼は私に向かって優しく語りかける。
「面影は 身をも離れず 山桜
心の限り とめて来しかど
今の私の気持ちに似ています。」
「城戸さん…」
私は顔が熱くなるのを感じた。
若紫を見かけた光源氏が、一目惚れをして忘れられないと詠った和歌。
「紫さん、聡司と呼んで下さい。
光源氏が藤壺の面影を追っていたような気持ちはありませんが、若紫を見て一目惚れした気持ちは今の私と似ています。」
聡司は側で片膝をつき、私の手を聡司の綺麗な手が、包み込むように握ってきた。
「あなたを初めて見た時から、恋に落ちました。
あなたの話し方や仕草の全てが愛おしい。
あなたは慎ましく控えめで、何より愛らしい。
私の様な年上の男に言われても、信じられないと思います。
どうか私を信じてくれないだろうか。」
最初のコメントを投稿しよう!