エピローグ1

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エピローグ1

 まぶたの上から訴えかけてくる温もり。はちみつのようにわたしの目頭を覆っていく。鼻に漂ってきたその刺激臭に思わずのけぞって目が覚めた。これは、粘着質。唾液? 顔をぬぐうとさらに、塗り広がっただけ。  髪を思わず振り乱す。自身の金髪が口に張りつく。え? わたしの顔の上に、覆いかぶさっているのは怪物! 異様に伸びた犬歯が、結んだ灰色の唇からはみ出して、よだれを私のまぶたに滴り落としているじゃないの。  声が出なかった。ふり絞るようにしてあの人の名前を叫ぶ。 「ジュスト! 助けて!」  私の悲鳴で怪物はその体躯をよじらせて頭をかかえた。剛腕を肘まで灰色の剛毛がたゆたっている。顔面は醜く歪み、鼻は膨らみ荒々しい息を吐く。眼球は黒く、瞳孔は黄色い。さながら狼のようないでたちで、服をまとっておらず、筋骨隆々とした灰色の肉体は成人男性よりひと回りも大きい。私の上に乗られたなら、押しつぶされてもおかしくない。 「グガアアアアアアアアアアアアアアア」  怪物は自身の頭から手を忌々しげにふりほどき、天井を仰いで咆哮する。薄暗い洞窟内で鼓膜まで震えるほどに反響した。   助けて……助けてジュスト。ここはどこ。私は、この怪物に殺される! ジュスト。どこにいるの! 私と同じく金髪の頼りなげな顔の青年を思い浮かべる。血を見るのも苦手な彼に短剣を握らせてしまったのは私。
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