本編

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 胸襟を開いた人付き合いはあまり得意でない。何かと相手と自分を比べて格付けしてしまい、自分より劣る人間は見下し優れた人間は苦々しく思う。完璧に整えた外面でなんとか覆い隠してはいるが、こんな性格では人といて落ち着くことはない。  それでも高校時代まではまだもう少し幅広い付き合いがあった気がするが大学に入り尚人と付き合うようになってからは、なおさら友人との距離は開いた。  同性であるがゆえに尚人は実質恋人と親友両方の立場を兼ねていたから、栄には彼一人いれば十分だった。もちろん他の友人を近づけることで男と付き合っていることを気取られたくないという気持ちがあったことも否定できない。  大学での立ち話やたまの飲み会で近況報告すれば十分で、さらに就職して仕事に忙殺されるようになると栄と友人たちとの関係は限りなく希薄になった。  ——そういえば、尚人は元気だろうか。  返信メールの下部にぶら下がっている、二ヶ月前の自分が書いた文面を眺めながら栄はふとそんなことを考える。  長年付き合った恋人との同居を解消してからは、いつのまにか一年が過ぎていた。引っ越して最初のうちはたびたびメッセンジャーで連絡を取っていたが、別れた恋人とあまり頻繁にやり取りするのも奇妙だと遠慮するうちに疎遠になった。  尚人の所属する家庭教師事務所の新事業が経済紙で取り上げられているのを見かけたこともあるので仕事はきっと順調だろう。連絡を取っているうちは新しい恋人ができたという報告は聞かなかったが、今もひとりでいるのだろうか。それとも、もしかしたら。  同情のような気持ちで笠井未生に近づく危険性については忠告したし、尚人も理解していたはずだ。だが別れた後の尚人の行動を縛ることはできない。尚人がどうなろうが関係ないと思いつつ、その存在は小骨のように栄の喉奥に引っかかり続けていた。  この挨拶メールも友人知人に一斉送信するときにどうするか悩み、栄なりに勇気を出して尚人をBCCに入れたのだ。エラーにはならなかったので届いてはいるのだろうが、一切の返信はなかった。  きっと尚人はもう栄との思い出なんかに頼る必要がないくらい前に進んでいるのだろう。その事実は栄を安堵させると同時に少し寂しくさせる。
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