本編

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 パートナーという言葉を一瞬脳内で処理しきれず、栄はとりあえず笑顔でエドなる男とも握手を交わした。  ダンカンとエドが目の前から離れてから、栄はようやく事態を飲み込んだ。 「パートナーって……こんなにおおっぴらに仕事の席に連れてくるんですね……」  国際社会では仕事とプライベートの切り分け方が日本とは異なるのか、確かにこの手のパーティに配偶者や恋人同伴で来る者は多い。だが、こうまであからさまに同性愛者が恋人を連れ回すというのは栄にとっては意外だった。呆気にとられたままダンカンとエドの背中を眺める栄に、久保村はあっさり頷く。 「そこまで珍しくはないよ。LGBTの関係は間違いなく日本よりはオープンで進んでるな。ただまあリベラルな人間の多いロンドンが特殊で田舎の方は別世界とも聞くから、地域や人にもよるんだろうけど」  ローストビーフを口に運びながら彼らへの偏見もなさそうに飄々と話す久保村は妻帯者で、間違いないストレートの男だ。一方で本来は同類であるはずの栄は、あからさまに同性の恋人を見せびらかすダンカンを苦々しく思っている。  彼らが決して栄にはできないことを行動に移しているからなのか、それとも必死に隠しているものを暴かれた気持ちになったからなのか。自分でも不快感が理由ははっきりとわからないまま、パーティには長居せず、久保村絶賛のローストビーフも口にしないまま栄は会場を後にした。
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