(番外)ミカドゲーム

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2.羽多野  言うまでもなく、羽多野は最初から怪しんでいた。  突き詰めれば多分一年くらい前。この家に転がり込んで、栄に少しずつ触れるようになった頃に「自衛官の同僚と食事に行く」と言われた、あのときから面白くなかったのだ。  曖昧な感覚ながら、すでに当時の自分は栄に対して執着じみた独占欲を抱きはじめていたのだと思う。  いくら接待の下見とはいえ、ミシュラン星つきのレストランにわざわざ男二人きりで行こうというのは、どことなく勘ぐりたくなる。疑いのまなざしを向けると今日と同じように「相手は好みのタイプでもないし、そもそもノンケに決まっている」と呆れた顔をされたっけ。  その男が「長尾」という名であることは、扉越しに響いてくるやり取りでついさっき知った。さすがにのぞき見するリスクを負う気にはなれなかったので、未だにどんな姿かたちの男なのかはわからない。とはいえ一般的に「エリート自衛官」という肩書きから想像される人物が栄の好みとかけ離れていることは確かだろう。  自身が男として優位に立てる生白い文化系男に弱い、そんな栄の性質は知りすぎるほど知っている。だが、人が必ずしも好みのタイプばかりと恋愛関係に陥るわけではないことも、まさに今現在の自分たちが証明している。  プライドの高さゆえにおだてに弱く、外面の良さゆえに押しに弱い。だからこそ好みではない相手であろうが、強引に粘られるうちにうっかり……羽多野が常日頃から心配しているパターンだ。 「なんでこんなもんが入ってんの?」  袋の一番上に入っていたチョコレート菓子の箱を取り出して、嫌みったらしく栄の鼻先に突きつける。「MIKADO」と大書きされたパッケージ。どこのスーパーマーケットで売っている「ポッキー」の海外展開バージョンだ。
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