(番外)ミカドゲーム

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「昨日職場で話題になったんですよ。ポッキーとMIKADOって同じ味なのか、味変えてるのかって。だから気を利かせて、食べ比べできるようにMIKADOも買ってきてくれたみたいです。俺じゃなく久保村さんにでも渡せばいいのに」  責められているようで面白くないのか、ふてくされた表情の栄は早口にまくしたて最後にチクリと付け加える。 「っていうか、聞くまでもなく大体の経緯はわかってるんじゃないですか? あなたのことだから、どうせ盗み聞きしてたんでしょうし」 「盗み聞き!? 人聞きが悪いな。元はといえば君がこそこそ……」 「今日は、こそこそなんかしてません!」  図星をつかれて思わず反論した羽多野だが、この点については確かに栄の言うとおりだ。動揺のあまり説明が稚拙ではあったものの、栄は長尾なる男の来訪について正直に羽多野に明かした。  自分の知らない場所でこそこそ密会されるよりは、把握できる範囲でやり取りしてくれた方がずっとまし。だから栄を責めすぎるのも逆効果ではあるのだが、ほどほどには圧をかけておかないと甘く見られる。などと狡猾に計算してとるべき態度を決めていると言いきれたら、どれだけ楽だろう。  いくら言い訳を試みたところで羽多野は、どこぞの男が栄に粉をかけてくることがただ面白くないだけなのだ。  それに、どう考えても話ができすぎている。  会社でポッキーの話をした翌日に、ちょうど日本から荷物が届く? しかも、ロンドンでも手に入るような微妙な日本食材だらけで、都合良くポッキーが入っていただなんて。  おめでたい栄は疑いを持っていないだろうが、穿った見方をすればこれは 「職場の雑談をだしに休日のお宅突撃を敢行した」といえるのではないか。これらの食品はジャパンセンターあたりで買い集めたと考えたほうが、いっそ自然だ。 「もしかして、そいつ、谷口くんと一緒に食べ比べしたかったんじゃないか? しつこく家に上がりたがってたし」
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